Bリンパ球の分化に重要な転写因子間の相互作用を発見 -BACH2とIRF4の機能バランスが大事!-
2024.4.15 Mon
研究発表のポイント
- 免疫に関わるリンパ球の1種であるB細胞1が抗体を産生するためには、2つの転写因子2の機能バランスが重要であることを発見しました。
- 転写因子BACH23とIRF44は、B細胞の抗体産生を協調的に誘導していることがわかりました。
- BACH2が欠損すると、IRF4機能が異常になることで抗体産生細胞への分化が促進していることがわかりました。
- この研究成果により、抗体による生体防御能を高める戦略や自己免疫疾患の治療の開発につながることが期待されます。
概要
新型コロナウイルスのパンデミックで注目されたように、抗体は生体からの病原体の排除に重要です。生体内で抗体を産生する形質細胞5はB細胞から分化しますが、この分化過程の詳細は明らかとなっていません。
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の落合 恭子助教、五十嵐 和彦教授らの研究グループは、B細胞において転写因子BACH2とIRF4が互いの機能を調節し合って形質細胞の分化を制御していることを発見しました。さらにBACH2欠損マウスのB細胞では、IRF4機能が異常になり、形質細胞への分化が促進されることを突き止めました。
本研究はBACH2とIRF4の機能関連性を明らかにした新たな形質細胞分化モデルです。将来、両転写因子の機能を調節することで抗体による生体防御能を高める戦略や自己免疫疾患の治療の開発につながることが期待されます。
本研究の成果は、2024年4月11日に欧州分子生物学研究機構の機関誌The EMBO Journalに掲載されました。概要は、YouTubeの医学系研究科公式チャンネルでもご覧いただけます。
詳細な説明
研究の背景
B細胞は、形質細胞に分化する過程で、抗原6に応じて抗体機能を高める反応(抗体クラススイッチという)が生じたあと、形質細胞に分化します。東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の落合 恭子(おちあい きょうこ)助教、五十嵐 和彦(いがらし かずひこ)教授らの研究グループは、これまで、転写因子BACH2とIRF4による形質細胞分化制御の研究を行い、「BACH2は分化を抑制して抗体クラススイッチを誘導する」こと(参考文献1)、「IRF4は抗体クラススイッチを促進したあと、分化を誘導する」こと(参考文献2)を報告しました。
BACH2とIRF4は共に抗体クラススイッチの促進にはたらきますが、形質細胞分化には正反対にはたらきます。そこで研究グループは、形質細胞分化過程における両転写因子機能の関連性を明らかにする必要があると考えました。
今回の取り組み
落合助教らの研究グループは、マウスから採取した細胞培養液中でB細胞から形質細胞分化を誘導する実験系を用いて(参考文献3)、BACH2とIRF4が互いの機能を調節し合って形質細胞分化を制御する仕組みを明らかにしました。
分化前のB細胞では、BACH2がIRF4の活性化標的遺伝子である形質細胞遺伝子をヘテロクロマチン構造7によって抑制していることを発見しました(図1左)。抗原によってB細胞が刺激されると、BACH2の機能が低下し、これらのIRF4標的遺伝子が発現可能状態になります(図1中央)。一方、IRF4はBACH2遺伝子の発現を誘導するなどして「BACH2機能の活性化」にはたらきます。このとき、BACH2とIRF4が適切なレベルではたらくことで、抗体クラススイッチが誘導されると考えられます。そのあと、IRF4の「形質細胞遺伝子を活性化する機能」が高まって形質細胞に分化します(図1右)。
ところが、BACH2を欠損したマウスのB細胞では、抗原刺激がなくてもIRF4が過剰にはたらくようになり、形質細胞遺伝子を活性化していることが分かりました(図2)。その結果、この異常なB細胞は抗体クラススイッチをすることなく、形質細胞に分化することが明らかになりました。
今後の展開
研究チームは、BACH2とIRF4の機能を制御することで、抗体クラススイッチや形質細胞を促進する戦略開発を目指しています。これは、個体の感染防御能を底上げするために役立ち、既知のウイルスだけでなく、未知のウイルスに対しての有効性も期待されます。さらに、近年ヒトでのBACH2機能異常が自己免疫疾患の発症に関与することが明らかになってきています。自己免疫疾患では自己抗体が産生されて自身の細胞を攻撃しますが、BACH2やIRF4の機能を制御することで自己抗体の産生を制御できる可能性があり、自己免疫疾患の新たな治療開発にも役立つことが期待されます。


謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(研究代表者:落合恭子 (JP23H02671, JP20K07351,JP16K19026)、島弘季 (JP20K07321)、五十嵐和彦 (JP22H00443, JP18H04021)、AMED-CREST(研究代表者:五十嵐和彦(16gm050001))、ライフサイエンス振興財団研究開発助成(研究代表者:落合恭子)、三菱財団助成金(研究代表者:五十嵐和彦)の支援を受けて行われました。
用語説明
- B細胞:リンパ球の一つでBリンパ球とも呼ばれる。抗体産生を担う形質細胞に分化できる唯一の細胞。抗体は抗原(病原体などに由来するペプチド)に結合する血中タンパク質で、病原体の排除や処理を促す。 ↩︎
- 転写因子:「遺伝子の発現(転写)」を調節するタンパク質。転写を活性化するもの、転写を抑制するものがある。 ↩︎
- BACH2:抗体クラススイッチに不可欠な転写抑制因子。 ↩︎
- IRF4:抗体機能の向上と形質細胞分化の双方に不可欠な転写因子。転写活性化と転写抑制の双方に働く。 ↩︎
- 形質細胞:B細胞は抗体産生細胞である形質細胞に分化する。形質細胞への分化過程では、多くの遺伝子発現がダイナミックに変化する。 ↩︎
- 抗原:ウイルスや細菌といった病原体などがもつ、免疫応答を起こす物質。B細胞は細胞表面に抗原を結合する受容体を発現していて、抗原が結合すると細胞内に分化刺激が伝わる。 ↩︎
- ヘテロクロマチン構造:遺伝子発現を強固に抑制する構造。 ↩︎
参考文献
1.Muto A et al. (2010) Bach2 represses plasma cell gene regulatory network in B cells to promote antibody class switch. The EMBO Journal 29: 4048-4061
2.Ochiai K et al. (2013) Transcriptional regulation of germinal center B and plasma cell fates by dynamical control of IRF4. Immunity 38: 918-929
3.Ochiai K et al. (2021) Protocol for in vitro BCR-mediated plasma cell differentiation and purification of chromatin-associated proteins. STAR Protocol 2: 100633
論文情報
タイトル:Accelerated plasma cell differentiation in Bach2-deficiency is caused by altered IRF4 functions
著者:Kyoko Ochiai*, Hiroki Shima, Toru Tamahara, Nao Sugie, Ryo Funayama, Keiko Nakayama, Tomohiro Kurosaki and Kazuhiko Igarashi*
*責任著者:
東北大学大学院医学系研究科 生物化学分野 助教 落合 恭子
東北大学大学院医学系研究科 生物化学分野 教授 五十嵐 和彦
掲載誌:The EMBO Journal
DOI:10.1038/s44318-024-00077-6
URL:https://www.embopress.org/doi/full/10.1038/s44318-024-00077-6
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
助教 落合 恭子 (おちあい きょうこ)
TEL: 022-717-7597
Email: kochiai*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-8032
FAX:022-717-8931
Email :press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
- 関連資料
- プレスリリース資料(PDF)
- 関連リンク
- 生物化学分野