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肺がんに対するがん特異的抗体開発に世界で初めて成功 〜副作用のない抗体医薬品に期待〜

発表のポイント
  • ポドプラニン(注1)を標的とする抗体医薬(注2) PDPN-CasMab(注3) を作製しました。
  • PDPN-CasMabは、がん細胞だけに反応し、正常の上皮細胞には全く反応しませんでした。
  • PDPN-CasMabは肺がんに対する抗腫瘍効果を示したことから、悪性度の高い肺がんに対する副作用のない治療法の開発が期待されます。
概要

血小板凝集因子として発見されたポドプラニン(PDPN)は、絶対的なリンパ管マーカーとして有名である。また、悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、肺扁平上皮がんなど、特に悪性度の高い腫瘍で高発現しており、標的分子として注目されている。その一方で、PDPNは全身の正常細胞に発現しているため、正常細胞に対する副作用が懸念され、PDPNが発現するがん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬の開発が求められていました。
東北大学大学院医学系研究科抗体創薬学分野の加藤幸成教授の研究グループは、がん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬(CasMab)の開発を行ってきました。本研究では新たに、PDPNを標的とするPDPN-CasMabを作製しました。今回開発したPDPN-CasMabは、がん細胞だけに反応し、正常の上皮細胞には全く反応しませんでした。さらに、PDPN-CasMabは肺がんに対する抗腫瘍効果を示したことから、肺がんに対する副作用のない治療法の開発が期待されます。
本研究結果は、2024年11月6日、科学誌Cellsに掲載されました。概要はYouTubeの抗体創薬学分野チャンネルでもご覧いただけます 。

詳細な説明

研究の背景
東北大学大学院医学系研究科抗体創薬学分野の加藤幸成教授の研究グループは、2014年に初めて、がん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬(CasMab)の開発に成功しました。これまで、複数の膜タンパク質に対する CasMab の報告を行い、企業導出にも成功しています。2020年にはHER2-CasMabを小野薬品工業株式会社に導出しました。小野薬品工業株式会社とFate Therapeutics社(米国カリフォルニア州サンディエゴ)は、HER2-CasMabの遺伝子を導入した多重遺伝子編集キメラ抗原受容体(CAR)T細胞製品候補であるFT825/ONO-8250を用いて、米国にて第I相臨床試験を開始しました(https://www.med.tohoku.ac.jp/5561/)。
加藤らが2003年に血小板凝集因子・転移促進因子として遺伝子クローニングに成功したポドプラニン(PDPN)は、リンパ管マーカーとして臨床現場で使用されています。また、悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、肺扁平上皮がんなど、特に悪性度の高い腫瘍で高発現しており、標的分子として注目されていました。一方、PDPNは脳、口腔、食道、肺、腎、皮膚などの全身の正常細胞に比較的高い発現をしているため、PDPNを標的とした治療については、正常細胞に対する副作用が懸念されてきました。よって、PDPNが発現するがん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬の開発が求められていました。

今回の取り組み
本研究では新たに、PDPNを標的とするPDPN-CasMabを作製しました。今回開発したPDPN-CasMabは、がん細胞だけに反応し、複数の正常の上皮細胞にほとんど反応しませんでした(図1)。

図1.PDPN-CasMab は正常細胞にはほとんど反応しない

さらに、PDPN-CasMabは肺がんに対する抗腫瘍効果を示したことから(図2;**P<0.01)、肺がんに対する副作用のない治療法の開発が期待されます。

図2.PDPN-CasMabは肺がんに対し抗腫瘍効果を示す

今後の展開
本成果により PDPN-CasMabの抗腫瘍効果が示されたことから、悪性度の高い肺がんなどのPDPN陽性がんに対する副作用のない治療法の開発が期待されます。さらに、PDPN-CasMabを抗体薬物複合体(ADC)(注4) やキメラ抗原受容体(CAR)T細胞(注5)に応用することにより、副作用のない画期的な治療法の開発に繋がる可能性があります。

謝辞

本研究は、AMEDスマートバイオ創薬等研究支援事業およびAMED生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)により支援されています。

用語説明

注1.ポドプラニン(PDPN):血小板凝集因子や転移促進因子として知られ、多くのがん組織で高発現している。リンパ管マーカーとして、血管との鑑別にも利用されている。ヒトPDPNのThr52に付加されている糖鎖が血小板凝集に必須であり、そのレセプターはCLEC2(クレックツー)である。
注2.抗体医薬:抗体とは、リンパ球のうち、B細胞が産生するタンパク質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。がん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、多くの抗体医薬品が臨床で使用されている。
注3.CasMab(キャスマブ):Cancer-specific monoclonal antibody(がん特異的抗体)の略で、2014年に東北大学の本研究室が世界で初めて発表した(商標:第5690178号)。がん細胞と正常細胞に発現する膜タンパク質のアミノ酸配列が100%同一であっても、がん細胞に特徴的な構造の違いを認識する。
注4.抗体薬物複合体(ADC):抗体に抗がん剤などの薬(ペイロード)を付加したもの。抗体が特定の分子に結合する性質を利用して、薬をがん細胞まで運び、そこで薬を放出することで、抗腫瘍効果を発揮する。
注5.キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞:遺伝子工学の技術を用いてキメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれるタンパク質を作り出すことができるようにT細胞を改変したもの。CARは、がん細胞などの表面に発現する特定の分子を認識するように設計され、CARを作り出すことができるようになったT細胞をCAR-T細胞と呼ぶ。

論文情報

A Cancer-Specific anti-Podoplanin Monoclonal Antibody, PMab-117-mG2a Exerts Antitumor Activities in Human Tumor Xenograft Models
Tomohiro Tanaka, Hiroyuki Suzuki, Tomokazu Ohishi, Mika K. Kaneko, and Yukinari Kato*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 抗体創薬学分野 教授 加藤 幸成
掲載誌:Cells
DOI:https://doi.org/10.3390/cells13221833
URL:https://www.mdpi.com/2073-4409/13/22/1833

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科抗体創薬学分野
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)
TEL:022-717-8207
Email:yukinari.kato.e6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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