持続するせき
呼吸器内科 杉浦 久敏
2025.3.27 Thu
最近、せきが続くことがありませんか?健康な人でもホコリを吸ったりするとせきが出ますが、これは正常のせきの反射です。一方で、明らかな要因がなくせきが続く場合は、気管支や肺の病気が隠れていることも考えられますので、ぜひ早めに医療機関を受診してください。
健康な方でせきが出る場合に最も多いのが風邪などの感染後のせきです。通常は1~2週間で、せきは自然に消失します。風邪は治ったはずなのに3週間たってもせきが止まらない、以前から軽く出ていたせきがだんだんひどくなってきた、夜にせき込んで眠れない…という経験はありませんか?せきは日常的なものとしてつい放置しがちですが、長引く場合には重い病気が隠れていることがあります。多くの呼吸器の病気でせきは必ず起こる症状ですし、呼吸器の病気以外でもせきは出ます。
せきが持続する際に、私たちは患者さんの年齢や生活習慣(ペットやホコリなどの生活環境、アレルギー歴、喫煙など)から、せきの原因を推測します。続いて、せきが持続する期間、せきの出はじめたきっかけ、せきと共に出る症状(随伴症状)を注意深く聴取します。3週間以上続く場合は、感染後のせきの可能性は小さくなります。高齢者で食事を食べた後にせき込む場合は、誤嚥を疑います。夜間・明け方に出る発作性の喘鳴(ぜんめい)を伴うせきは、気管支喘息を疑います。黄色いたんを伴うせきは、気管支および肺の感染症を考えます。血痰などがあれば肺結核や気管支拡張症(気管支の内腔が異常に拡がる病気)、肺がんなどを疑います。せきが続き、医療機関を受診する際はこれらの症状をお伝えください。
せきが持続する場合に気を付けたい呼吸器の病気として、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺がん、気管支・肺の感染症、間質性肺炎について順に解説します。気管支喘息は子どもから老人まで広くかかる病気で、推定患者数は人口の10%近く存在するといわれます。アレルギー性鼻炎などアレルギーの病気ともよく合併します。症状は、何らかの刺激(寒暖差、ホコリ、感染症など)によって発作性のせきや喘鳴が持続します。現在は非常に効果の高い吸入薬がたくさん出ていますので、これらの症状を自覚する際は医療機関を受診してください。COPDは、たばこの煙などの有害物質を長期に吸入曝露(ばくろ)することで生じる肺の病気です。喫煙習慣を続けた中高年に発症する生活習慣病といえます。歩行時の息切れ、慢性のせきやたんなどが特徴的な症状です。禁煙が治療の基本となります。薬物療法の中心は吸入薬で症状が和らぎます。肺がんは肺に発生する悪性腫瘍で、早期であれば手術が最も治癒の期待できる治療法です。放射線治療や抗がん剤治療、さらにこれらを組み合わせた治療が選択されます。検診で見つかることも多い病気ですので、症状が無くても検診は必ず受診するようにしましょう。気管支および肺の感染症の原因となる病原体は多様です。結核菌を含む細菌、ウイルス、真菌などが原因で発症します。急性だけではなく慢性に症状が持続する場合もあります。発熱や膿性のたんを伴う場合が多く、適切な抗菌薬で治療します。間質性肺炎は肺胞の壁に炎症が起こり、線維化することで酸素が取り込みにくくなる病気です。膠原病や様々な抗原、薬剤が原因で生じることがあります。また、原因不明のもの(特発性間質性肺炎)もあります。たんを伴わないせきや、動いたときの息切れが自覚症状です。原因の特定と早期の治療が重要です。
こうした呼吸器の病気はいずれも、軽いせきが出るくらいの症状のうちに診断および治療することがとても大切です。一過性ではなく持続するせきは異常のサインと考え、早めに病院を受診しましょう。
杉浦 久敏
(すぎうら ひさとし)
1967年生まれ、三重県出身。1993年東北大学医学部卒業。東北大学、和歌山県立医科大学勤務を経て、2012年から東北大学呼吸器内科学分野勤務。2020年より東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器内科学分野教授および呼吸器内科科長に就任、現在に至る。
※東北大学病院広報誌「hesso」46号(2024年10月31日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」