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〔いのち)の可能性をみつめる

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コロナと膝の痛み

整形外科 上村 雅之

マスク装着がつらい夏もようやく終わりに近づき、秋の気配が漂ってくるこれからの季節、整形外科外来では膝の痛みを訴えて受診する患者さんが増え始めます。「ずっと前、別の病院で膝がすり減っていると言われて、でもそんなに困ってなかったんです。なぜ今になって痛み始めたのでしょうか?」気候が涼しくなり、真夏に控えていた屋外の活動を再開したためか、それとも冷えやすくなって痛みに敏感になったのか、原因はさまざまです。

しかし新型コロナウイルス感染症の流行が始まった昨年以降、患者さんの口から聞く言葉が変わってきました。「去年の年明けからコロナが怖くて、生活が一変してしまったんです。以前は旅行や登山、散歩に出ていたのですが、今は何もできなくて。そのせいか脚の筋肉が落ちて細くなってしまい、でも代わりにお腹は出て体重が増えてしまって。気分もずっと滅入っています。そういえば、膝の痛みがひどくなってきたのはその頃かもしれません。」

膝の痛みと新型コロナウイルス感染症の流行には関連があるのでしょうか?

膝痛の原因として最も多い疾患に、変形性膝関節症が挙げられます。これは、関節の中のクッション(骨の表面を覆う軟骨、軟骨同士の間に挟まる半月板)にすり減りや損傷が起こることで、関節に炎症や変形が起こり、痛みを引き起こす疾患です。厚生労働省の調査では、変形性膝関節症で痛みを自覚している方は日本に1000万人、痛みがなくても水面下には3000万人いると推測されています。変形性膝関節症のほかに、関節を動かす筋肉と骨をつなぐ腱と呼ばれる部位や、関節周囲の脂肪のクッションが痛みの原因となる場合もあります。

膝の状態は以前と大差ないにもかかわらず、患者さんの感じる痛みが強くなった時に挙げられる原因として①体重②筋力低下③運動不足④精神状態の4つがあります。この4つはいずれも、新型コロナウイルス感染症流行による生活環境の大きな変化で多数の方が影響を受けている因子です。

第一に、体重との関連です。膝にかかる体重の負荷は、階段昇降で全体重の5倍といわれています。つまり体重が5kg増えた時に、膝関節にかかる負荷は25kgも増えています。傷んだ関節にかかる負荷が増えることで、患者さんの感じる症状は強くなります。

第二の原因は筋力低下です。膝を取り巻く太ももやふくらはぎの筋肉は、単に膝を曲げ伸ばしする動きだけでなく、中腰の姿勢を維持したり、歩行中に片脚立ちになる瞬間のバランスをとる働きをしています。筋力が低下すると膝は不安定になり、関節への負担が大きくなることで痛みの悪化につながります。

第三の原因は運動不足です。膝に痛みがあると、どうしても動かすのがおっくうになり安静をとりがちです。しかし、床や椅子に座って関節に過剰な負荷がかからないよう保護した上で運動療法を行うと、関節の炎症が軽減し、痛みを引き起こす物質の働きが抑えられることが分かっています。運動療法は、先に述べた筋力低下の改善にも良い影響があります。

第四の原因が精神状態です。変形性膝関節症の患者さんのうち、約2割の方が抑うつ状態にあったと報告されています。痛みのせいで気分が落ち込むという要素もありますが、精神的に落ち込んでいる状態では痛みのセンサーが過敏になるという影響があります。

宮城県内における新型コロナウイルス感染症のワクチン接種もようやく広がり始め、まだ時期によって大きな波はありますが、行動制限の解除を目指して少しずつ前進している状態です。換気やマスク装着、距離の確保といった注意は引き続き必要になりますが、それらを守った上で自宅での運動や屋外の散歩など気分転換を行っていくようにしましょう。その意識が、膝関節だけでなく全身の不調の予防につながっていきます。

上村 雅之
(かみむら まさゆき)

1981年生まれ。青森県出身。2005年東北大学医学部卒業。仙北組合総合病院、東北大学病院、仙台医療センター、福島労災病院、西多賀病院を経て、2015東北大学病院助教、2021年より病院講師。

※東北大学病院広報誌「hesso」31号(2021年8月31日発行)より転載

関連リンク
東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」