不安への対処法
精神科 富田 博秋
2025.3.27 Thu
不安とは対象がはっきりしない漠然とした恐れの感情を指し、しばしば、緊張感や動悸(どうき)、発汗など、自律神経の反応を伴います。不安が強まったり、続いたりした際の対処法を三つ紹介します。
不安への対処法の一つ目は、不安を引き起こしている大本の原因に向き合ってみることです。時間を決めて、不安な感情とともに心に浮かぶこと、気持ちに引っ掛かっていることを書き出してみます。そして、それぞれについて、思い付く範囲で取りあえずの対処法を考えてみましょう。どうしようもないことは保留します。この作業をするのは、疲れているときや夜ではなく、日中、元気がある間に行うことが望ましいです。
頭の中だけでとりとめもなく思いを巡らせていると、不安は広がり増強していきます。書き出すことで、正面から捉えることで、不安がすっかりなくなりはしないまでも限定され、整理されることで、和らぐことが多いです。安心して話せる人がいれば、その人に話を聞いてもらうことも有効です。
不安に向き合って書き出すのに適した時間以外にとりとめなく考え始めたらどうしたらよいでしょう。例えば、職場で作業している時、通勤・通学している途中、食事中、寝る前や夜中に目が覚めたときにふつふつと考えにとらわれ、不安になることはありがちです。気になっていることは考えないようにしようと思えば思うほど、頭に浮かんできます。「気持ちの切り替え」が大事と言われますが、コツを知らないと難しいものです。
対処法の二つ目は、「気持ちの切り替え」のコツを知ることです。そのコツの一つは普段、無意識のうちに行っている動作に意識を向けることにあります。例えば、私たちが無意識のうちに行っていることに呼吸があります。あえてゆっくり息を吸い、さらに時間をかけてできるだけゆっくり息を吐く間に、空気が鼻から気道を通って肺が膨らみ、今度は空気が出ていくに従って肺がしぼむ感覚に意識を向け続けます。何かを見聞きしながらでも、作業しながらでも構いません。そのことに意識が向いている間は、さまざまなことが頭に浮かぶことはなく、心が静かになり、自律神経系も静まります。しばらくそうしていると、呼吸から意識が離れ、雑念が浮かぶかもしれません。そのことに気が付いたら、また、意識を呼吸に戻します。一日の中で決まった時間に、また、随時に行うことで、心の状態が落ち着きやすくなり、気持ちの切り替えもしやすくなるでしょう。呼吸以外にも、食べるときに食感、味、香りに意識を集中しながら食べること、歩くときに姿勢や手足の動きに意識を向けながら歩くことなどにも同じ効果があります。
もう一つ、不安への対処として地道に効果があることは、生活習慣を見直すことです。十分な睡眠をとること、朝日を浴びること、バランスのよい食事を取ること、よくかんで味わって食べること、歩くこと、適度に運動する習慣を持つこと、人と話をすること、これらのことはどれも不安を軽減し、心を健康に保つ上で有益です。不安なときには、これらのことを保つのが難しくなっているかもしれませんが、できることから、できる範囲で心掛けてみると、良い方向に働くでしょう。
不安を感じるからといって、必ずしも病気とは言えませんが、「不安障害(不安症)*1」や「強迫性障害(強迫症)*2」などの病気による強い不安や持続する不安のために日常生活に支障を来たしてしまうことがあります。次ページの不安のセルフチェックで、いずれかに該当する方は、医療機関を受診していただくことで、状態が改善する可能性があります。
*1 不安症:もともと正常な反応であるはずの不安が、日常生活にも支障を来すほど強く長く続いたり頻繁に起こるようになり、それとともに動悸や呼吸困難、めまい、不眠、イライラなどの不安発作(パニック発作)が起きること。
*2 強迫症:きわめて強い不安感や不快感をもち、それを打ち消すための行為を繰り返すこと。
(厚生労働省ホームページより)
富田 博秋
(とみた ひろあき)
1963年生まれ。福岡県出身。1989年岡山大学医学部卒業。1995年同大学大学院博士課程修了。長崎大学医学部人類遺伝学教室助手、カリフォルニア大学アーバイン校医学部生理学講座研究員、同校医学部精神医学講座助教授相当研究員を経て、2006年東北大学大学院医学系研究科精神・神経生物学分野准教授。2018年より同大学院医学系研究科精神神経学分野教授、東北大学病院精神科科長に就任。
※東北大学病院広報誌「hesso」32号(2021年11月30日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」