身近にある貧血
血液内科 張替 秀郎
2025.3.27 Thu
私たちの血液が赤いのはたくさんの赤血球が血液に含まれているからです。このたくさんの赤血球は一体何をしているのでしょうか。赤血球は、毎日毎日酸素を体の隅々まで運んでいます。ですので、赤血球が足りなくなると私たちの体は酸素不足になります。この赤血球が足りなくなった状態が貧血です。貧血になると酸素不足でめまいや立ちくらみがすることがありますし、顔の赤みが消えて青白くなります。酸素が足りないので、頻呼吸となってハアハアと息切れをするようになります。
もう少し詳しく説明すると、赤血球が酸素を運ぶには赤血球に含まれるヘモグロビンというたんぱく質が必要で、酸素はヘモグロビンにくっついて運ばれます。例えて言うと赤血球は酸素を運ぶトラックで、赤血球トラックは肺で酸素を積んで、隅々の組織に行くと酸素を荷下ろしします。その荷台にはヘモグロビンがたくさん積んであって、酸素を運ぶ時にはヘモグロビンに酸素がくっついて運ばれているというイメージです。
貧血になるにはいろいろな原因があります。けがをしてたくさん出血をすると貧血になりますし、腎臓が悪くなると赤血球の作りが落ちて貧血になります。中でももっともよく見られるのが鉄が足りなくなって起こる、鉄欠乏性貧血です。貧血の7_割がこの鉄欠乏性貧血といわれており、特に若い女性の1〜2割は鉄欠乏性貧血になっています。本当に身近にある貧血といってよいと思います。という訳で、この後は鉄欠乏性貧血についてお話をします。
そもそも、なぜ鉄が足りなくなると貧血になるのでしょうか。実はヘモグロビンには鉄が含まれていて、酸素は鉄に直接くっついて運ばれます。ですので、鉄がないとヘモグロビンは酸素を運べませんし、鉄がないとヘモグロビンが作れません。結果的にヘモグロビンができないと赤血球そのものも作られないということになるのです。実は、赤血球以外の細胞も生きていくためのエネルギーを作るために鉄を必要としています。そのために鉄不足は貧血以外の体の不調の原因になるといわれています。夜、足がむずむずして眠れない、氷をがりがりと食べたくなる、舌がしみる、などの症状が、鉄不足で出ることが知られています。
毎日私たちはたくさんの鉄を食べ物から取っていると思われがちですが、実は食べ物から吸収される鉄の量はあまり多くありません。ですので、いったん体から鉄が失われると補給が難しく簡単に鉄不足となってしまいます。周期的に出血する生理がある年代の女性は、この理由により鉄欠乏性貧血のハイリスクとなっていて、予備軍も含めるとこの年代の女性は半分近くが鉄不足にあるといわれています。また、成長期のお子さんも体が大きくなるために鉄が必要ですし、妊婦の方も赤ちゃんの分の鉄が必要なので、鉄不足のリスクが高くなります。一方で、それ以外の成人の男性や生理のない女性は自然に鉄不足になることはないので、もし鉄欠乏性貧血になったら、病的な出血がある、すなわちがんなどの病気が隠れている可能性があります。
それでは、鉄欠乏性貧血にならないためにはどのようにしたらよいでしょうか。鉄不足のリスクが高い、生理がある女性、成長期のお子さん、妊婦の方は積極的に鉄を取る必要があります。鉄が多く含まれる食べ物として、魚や赤身の肉、レバーなどの肉類、ホウレンソウなどの緑黄色野菜などがよく知られています。ただ、緑黄色野菜に含まれる鉄は肉類に含まれる鉄と比べて吸収率が良くありません。ですので、ホウレンソウだけをたくさん食べても鉄不足の予防にはなりません。一方で肉類ばかり食べても栄養が偏ります。ビタミンCは鉄の吸収を良くしますので、肉類だけでなくビタミンCを多く含む野菜や果物と一緒にバランスよく取るのが一番良いと思います。
鉄不足は貧血だけでなく、体のさまざまな不調につながります。お子さんたちの学習意欲の低下にもつながるといわれています。バランスの良い食事を取って鉄不足にならないよう心掛けましょう。
張替 秀郎
(はりがえ ひでお)
1960年生まれ。茨城県出身。1986年東北大学医学部卒業。東北大学医学部第二内科、米国ロックフェラー大学研究員などを経て、2007年に東北大学大学院医学系研究科血液免疫病学分野教授に就任。2012年より東北大学病院副病院長。2020年4月よりCRIETOセンター長。
※東北大学病院広報誌「hesso」36号(2022年11月30日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」