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〔いのち)の可能性をみつめる

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熱中症

救急科 久志本 成樹

私たちの体は、体温を調節したり、血液を循環させたりして、私たち自身のことを守ろうとしてくれています。そして、すべて無意識のうちに行われます。

寒いときには鳥肌が立ちます。肌をよくみると、毛穴があるところだけ皮膚が盛り上がっていることが分かります。動物は毛を逆立てることで冷たい空気に熱を奪われることを防いでいます。私たちの鳥肌は、祖先から引き継がれた習性の名残といえるでしょう。そして、私たちはぶるぶると震えることによって熱の産生を増やし、体温が下がらないようにしています。

暑いときにはどうでしょう。少し体温が上がっても、汗をかいたり、皮膚から熱を外へ逃がす仕組みを使って、体温調節が自然と行われています。そして、我慢できなくなるほど暑くなる前に快適なところに移動するでしょう。

なぜ体温が上がってしまうのでしょうか? _熱中症になってしまう条件には、「環境」、「体」、そして「行動」があります。環境の要因は、気温が高い、湿度が高い、風が弱い、日差しが強い、エアコンがないなどがあります。体の要因には、激しい運動によって体内に熱が生じること、暑さに体が十分に対応できないこと、高齢の方や小さなお子さんなどは喉の渇きや暑さに気づきにくいこと、持病や体調不良などがあります。そして、激しい運動だけでなく、長く水分補給ができないような行動も要因となります。これらが組み合わさって体温の上昇と調節のバランスが崩れると、どんどん体に熱がたまってしまいます。

熱中症はどのようにして起こるのでしょうか? _体にたまった熱は、外気や冷たいものに触れたりすることによって、皮膚の表面から逃がすことができます。そして、風にあたることでその効率を上げることができます。ところが、気温が高くなると熱を逃がしにくくなります。汗は蒸発するときに体から熱を奪ってくれますが、汗をかくと水分や塩分が体外に出てしまうために、きちんと補充をしないと熱を逃がすことができなくなります。体温を保つために汗をかき、体内の水分や塩分を減らしてでも体温を維持しようとしています。この失った水分や塩分が補充されないと血液の流れが滞り、体温が上昇して大切な臓器が高温にさらされてしまいます。そして、軽い症状から命に関わる危険な状態となります。これが「熱中症」です。

熱中症は命に関わる危険な状態ですが、予防法を知って実践することで防ぐことができます。また、応急処置を知っていれば重症化を回避できます。

熱中症を防ぐにはどうしたら良いのでしょうか? _小さなお子さんや高齢の方、持病のある方は熱中症になりやすいと言われています。小さなお子さんは、汗腺や体をコントロールする自律神経が十分に発達していません。高齢の方や持病のある方は自律神経の機能が低下し、体温調節機能も弱くなっています。また、高齢の方は全身に占める水分の割合が低く、脱水になりやすくなっています。脱水になると汗をかく機能が低下し、体温調節が困難となります。そして、年齢とともに喉の渇きや暑さを感じにくくなっていることも大きなリスクです。

もうひとつ大切なこととして、高齢の方の熱中症は屋外より屋内に多く、日中だけでなく夜でも起きることがあります。周りの人が気づくのが遅れると命に関わる重篤な状態となってしまうため、普段から「熱中症弱者」としてみんなで気をつけることが重要です。

1. 気温・湿度による暑さ指数を意識した生活を心がけ、運動や作業を止めることも考えましょう。
2. 水分をこまめに取りましょう。おかしいと思ったらすぐに涼しい場所に移動・誘導をしましょう。
3. 「家の中や夜は心配ない」ではないことを知っておきましょう。
4. 様子を見てもよくならないときや反応がおかしいとき、すぐに医療機関を受診しましょう。
5. 周囲にいるもの同士が、お互いに注意をし合いましょう。そして、だれもが、「自分は大丈夫」と過信してはいけません。

久志本 成樹
(くしもと しげき)

1959年生まれ、東京都出身。1985年大分医科大学医学部卒業。日本医科大学救急医学教授などを経て、2010年11月より東北大学大学院医学系研究科救急医学分野教授、東北大学病院救急科科長、高度救命救急センターセンター長に就任。

※東北大学病院広報誌「hesso」38号(2023年6月30日発行)より転載

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東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」