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〔いのち)の可能性をみつめる

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知って安心、てんかん

てんかん科 中里 信和

赤ちゃんからお年寄りまで、脳をお持ちなら誰でもいつでも「てんかん」を発症する可能性があります。どの年代でも「100人に一人」の病気といわれています。

医師も例外ではありません。患者が医師の場合、自己判断で治療が遅れるケースもあります。偏見から病名を隠すだけでなく、専門医を受診しない医師もいます。医師でも誤解しているのですから、一般の方が誤解や偏見を持つのは無理もありませんね。

「てんかんかも?」と思い悩む方、あるいは「てんかんです」と言われてショックを受けてはいませんか?正しい知識を持てば、てんかんの有無で人生は変わりません。この特集を読んで、てんかんの基本を押さえておきましょう。

突然倒れて白目をむき、全身を硬直させてガタガタ震える。これが全身けいれんです。でも、てんかん以外でも全身けいれんは起きます。血圧が一瞬低下する「失神」、心理的ストレスからの「心因性発作」、飲酒や薬物の禁断症状などです。効果がないのに、抗てんかん発作薬を飲み続けている人もいます。一方、てんかんでは全身けいれん「以外」の小さい発作もあります。本人が気付かなくとも「ボーッとして一点を見つめる、呼びかけても返事がない、動作が止まっている、無意識な行動を数分間続ける」などです。もっと小さい発作では「上腹部がムカムカと込み上げる、恐怖や不安に襲われる、おかしな音や人の声が聞こえる」などで、てんかん診療に慣れた医師でないと発作を見抜けません。

てんかんには良いニュースがあります。最近、新しい抗てんかん発作薬が次々と登場したのです。従来の薬に比べて副作用が少ないのが特徴です。てんかんでも、発作が2年消失しているなどの条件を満たせば、車の運転も可能です。薬を飲みながらでも、妊娠や出産、授乳も禁止されなくなりました。もしあなたが「てんかんの診断で働けない」という悩みを抱えているのなら、ぜひ一度、専門の医師に相談してください。

薬で発作を抑えられないてんかん患者は約3割です。あれこれ薬を試すより、思い切って入院した上で精密検査を受けるのが良いでしょう。

当院てんかん科では2週間が入院の基本です。最初の3泊4日は脳波とビデオで長時間の「モニタリング検査」を行います。この間、発作が起きても起きなくても診断精度が一気に高まります。中には、てんかんが否定される方もいます。てんかんのタイプによって治療薬も変わります。手術を受けた方が発作を止めやすいと判断される場合もあります。

入院は発作を診断するだけではありません。公認心理師やソーシャルワーカーが、お一人おひとり時間をかけて、さまざまな相談に乗ります。心の問題や経済的問題など、患者さんが抱える悩みは発作以外にもたくさんあるからです。

退院後、多くの患者さんに「もっと早く入院していれば良かった」と言ってもらえることが、私たちの喜びです。どんな悩みでも結構です。てんかんで困っているなら現在の主治医に相談して、ぜひ紹介状を用意してもらってください。

患者さんや家族は、てんかんの全てを勉強する必要はありません。てんかんのタイプは千差万別ですから、自分自身の(あるいは家族の)てんかんについて、誰よりも詳しくなることが大切です。そのためには医師の説明をよく聞くことが大切ですが、患者さんや家族向けの書籍で正しい知識を身に付けることも大切です。自分のてんかんに誰よりも詳しく。そうすれば、てんかんを克服して自分らしい人生を歩むための逆転の発想が生まれるでしょう。

中里 信和
(なかさと のぶかず)

1984年東北大学医学部卒業。同脳神経外科助手、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校研究員、広南病院副院長などを経て、2010年に東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野教授・東北大学病院てんかん科科長に就任。てんかん関連の入門図書や、メディアを介した啓発活動も展開中。

※東北大学病院広報誌「hesso」48号(2025年2月28日発行)より転載

関連リンク
東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」