薬がたくさん、大丈夫?
加齢・老年病科 科長|中瀬泰然
2025.7.4 Fri
処方の重複・連鎖防いで
高齢者の服薬増
病院を受診して病気であることが分かると、多くの場合、治療のための薬が処方されます。1種類の薬で治すことができればそれに越したことはありませんが、特に高齢者は複数の病気を持ちやすく、それぞれに対して治療薬が処方される結果、多数の薬を内服しなければならなくなります。
実際、厚生労働省の統計によると、5種類以上の薬をのんでいる割合が40~64歳では23%なのに対して、75歳以上では41%と増加しています。
病気の治療に必要であれば多数の薬をのむことはやむを得ません。しかし例えば、腰の痛みを訴えてA病院で痛み止めと胃薬をもらい、膝の痛みを訴えてB病院で違う種類の痛み止めと胃薬をもらっている場合、本来であれば1種類の痛み止めと1種類の胃薬のみの内服量の調節で済むはずが、4種類の薬を内服していることになります。
また例えば、処方されたせき止め薬の副作用で便秘になったとき、本来はせき止め薬の調節が必要なのにもかかわらず、便秘の薬をのみ始めてしまう。さらに、便秘薬の副作用で生じた胸焼けに対して胃薬をのみ始めるなどすると、雪だるま式に内服薬の数が増えていきます。この流れは「処方カスケード」と呼ばれます。カスケードは滝状の流れや連鎖を意味します。
家族もチェック
高齢者は、しばしば高血圧の薬や排尿障害の薬、睡眠薬や抗不安薬などを内服しています。これらは副作用として立ちくらみやめまい、ふらつき、意欲の低下など、老化現象と区別のつきにくい症状をもたらすことがあります。注意力の低下などから物忘れが強くなってくることもあります。
このように重複処方や処方カスケードによる内服薬数の増加、多数の薬による老化現象と似た症状の出現など、多くの薬をのんでいることで生じる問題をポリファーマシーと呼びます。
防ぐためには、かかりつけ薬局を持つことが一つの対策です。高齢者であれば家族が薬をチェックするのも良いと思います。内服の理由が分からない薬などあれば、処方した医師に確認してもらうきっかけにもなります。
東北大学病院加齢・老年病科では、高齢者ができる限り少ない数の薬で、できる限り効果が得られる治療を目指した診療も行っています。
河北新報掲載:2025年4月11日

中瀬 泰然
(なかせ たいぜん)
大阪府出身。1994年京都府立医科大学卒業。カナダ、ブリティッシュコロンビア大学生命科学研究所研究員、秋田大学医学部脳神経外科講師などを経て、2021年より東北大学加齢医学研究所准教授、東北大学病院加齢・老年病科科長。