てんかんと就労
藤川真由(東北大学病院 てんかん科 公認心理師・助教)
2025.9.5 Fri
病状伝え業務内容相談
てんかんとは、脳が過剰に興奮することで発作を繰り返し起こす脳の病気です。その原因や症状は千差万別で、どの年齢層でも100人に1人の割合で発病する可能性のある、ありふれた病気です。
しかし、治療法の進歩により発作が止まる人が多いことや、仮に発作があっても多様な就労が可能であることはあまり知られていません。実際、てんかんがある人が職場に病名を告げると辞職せざるを得なくなって転職を繰り返したり、無職のまま社会との接点が乏しくなったりすることも多いです。
就労を諦める前に、てんかんがある人や一緒に働く人に考えてもらいたいことがあります。
説明は具体的に
てんかんがある人の心構えとしては「自分の病状をよく知り、人に伝える練習をする」ことが大切です。発作症状は一人一人違うので、発作時に周りの人にしてもらいたいことや、反対に必要のないこと、業務への支障の程度も異なります。まずは主治医に、自分の発作症状、処方薬、発作時の周囲の対応、そして発作による仕事への影響を確認するとよいでしょう。
自ら具体的に説明できれば自信や責任感にもつながり、おのずと上司や同僚の理解が進んでサポートしてもらいやすくなります。
発作の影響がある業務にもかかわらず、病状を伝えないまま発作が起きたり、病名のみの不十分な情報しか伝えず、周りの誤解や過度な心配を引き起こしたりした残念なケースがあります。すると、本来の職業能力が発揮できないまま解雇され、自信を喪失する悪循環に陥りかねません。病院や地域の就労相談員に職場との関係をサポートしてもらうことも効果的です。
主治医と連携を
仕事に就きながらてんかんを発症した場合、職場への病状説明に加えて、「一瞬気を失う発作があるため、運転や高所作業はできないが、同僚の車に同乗して地上での作業はできる。主治医にも相談した」などと、業務内容の変更を自ら提案するとよいでしょう。こつは、あらかじめ主治医にも職場や産業医からの相談に応じてもらえるよう了承を得ること、そして自分のプラスの面を主張することです。
てんかんは特別な病気ではありません。本人の能力と適性に応じた就労の在り方を考える必要があります。てんかんがある人と一緒に働く人が「あなたの発作や必要な配慮とはどのようなものですか?」と尋ねれば相手への理解が深まります。一般就労が可能な人から障害者雇用枠で活躍できる人まで幅広くいることを理解していただきたいと思います。
河北新報掲載:2022年1月14日

藤川 真由
(ふじかわ まゆ)
公認心理士・臨床心理士・米国公認リハビリテーションカウンセラー。岩手県出身。2003年に渡米。2013年米国ウィスコンシン州立大学マディソン校博士課程を修了。同年東北大学てんかん学分野に助教として入職。2019年慶應義塾大学精神・神経科学教室の特任助教を経て、2021年に再入職。専門はリハビリテーション心理学。