思春期
菊池敦生(東北大学病院 小児科 科長)
2025.9.10 Wed
思春期という言葉が子どもから大人へと成長する過程で、心身に急激な変化が起きる時期のことを指す、ということはご存じの方が多いでしょう。では、具体的にはどのようなことが起きているのでしょうか?思春期には体が成熟し、生殖が可能になると同時に精神的にも大きく変化しますが、この変化はさまざまなホルモンが体の中で活発に分泌されることによって引き起こされます。性ホルモンであるエストロゲンやテストステロンの分泌が盛んになると、生殖機能の発達だけでなく、体格の変化や筋肉量の増加、皮膚の状態の変化、骨格の成熟など、体の至る所に影響が出てきます。
このように思春期はホルモンバランスが大きく変動し、心身の急激な変化が起こるため、さまざまな不調を訴えることがあります。例えば、頭痛や腹痛、めまい、倦怠感などです。起立性調節障害(OD)や摂食障害、心身症と診断されるお子さんが多いのもこの時期です。これらの疾患ともしばしば合併するのですが、不登校になる子も増えてくる時期です。これらの症状や困りごとは、軽度のものから専門的な対応が必要となるものまで幅広く、学校や医療機関と連携してサポートしていくことが重要です。
思春期の訪れるタイミングは個人差がありますが、通常女の子で8〜13歳、男の子で9〜14歳くらいです。標準的な年齢より極端に早い場合を「思春期早発症」、遅い場合を「思春期遅発症」といいます。思春期の開始がずれるとどのようなことが困るのでしょうか?思春期早発症の方が小児内分泌外来を受診されることが多いのですが、いくつかの医療上の問題があるのです。一つ目は低身長の原因になることです。身長のスパートが早く起こって一時的に周りのお子さんより身長が伸びます。しかし、骨の成熟が進んで骨端線(骨の長さが伸びるところ)が早期に閉じてしまうので、身長の伸びが早期に止まって最終的な身長が低くなってしまいます。二つ目としては早すぎる性成熟がお子さんの心理的負担になることが挙げられます。最後に、まれではありますが思春期早発症の原因として脳の病気が潜んでいることがあり、詳しい検査が必要になる場合があります。6ページのチェックリストに挙げている思春期早発症を疑うサインがあった場合には、一度医療機関を受診してみるとよいでしょう。病院ではこれらのサインのほか、身長の伸び、ホルモンの検査、レントゲンによる骨の検査などを組み合わせて診断します。思春期早発症と診断された場合、脳腫瘍など特別な病気があるときはまずその治療を行います。よくみられるタイプの場合は性ホルモンの分泌を抑えて思春期が進まないようにする治療法が検討されます。なお、思春期遅発症については女児で13歳、男児で14歳になっても思春期徴候がない場合に受診をご検討ください。
最後に、思春期で近年注目されていることとして、思春期から若年成人にかけての世代「AYA世代(Adolescent and Young Adult)」に特有の疾患があります。その代表がAYA世代がんで、非常に多様ながんを含んでいます。AYA世代の中でも特に思春期のがんは希少がんが多く、最適な治療方法がまだ確立していないものも多いことが課題です。小児のがんは小児科医、成人のがんは成人の専門医が担当することが多いため、AYA世代を専門とする医師が少ないことも問題といえるでしょう。さらにAYA世代では就学や就労、結婚や育児などさまざまなライフイベントが控えており、将来の生殖能力の温存や心理的なケアなど、成人や思春期以前の子どもとは異なる特別な配慮が必要になります。今後の研究によりAYA世代がんの患者さんの治療やケア、サポートをさらに改善していくことが期待されています。
思春期の心身の変化は誰しもが経験する過程ですが、中には医療が必要になるお子さんもいます。子どもたちが健やかに成長し、大人になるために、私たちも適切なサポートを提供していけるよう取り組んでいます。
菊池 敦生
(きくち あつお)
1978年宮城県生まれ、栃木県育ち。2002年東北大学医学部卒業。岩手県立中央病院、北九州市立八幡病院、宮城県立こども病院などを経て、2022年より東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野教授、東北大学病院小児科科長。
※東北大学病院広報誌「hesso」51号(2025年8月29日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」