TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

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てんかん患者の悩みは発作だけじゃない ―手術でてんかん発作が消えても、別の発作が起こる?―

発表のポイント
  • 外科手術によりてんかん発作が改善した後でも、約20%の患者に術後心因性非てんかん発作1が出現しうることを報告しました。
  • 術前の発作予期不安や結婚状態(既婚)が、発症に関連していました。これは手術により発作がなくなった後、社会的活動の正常化が新たな負荷をもたらす(Burden of Normality:正常の負荷)という心理学的状況を反映していると考えられます。
  • 上記の結果として、予定外の医療資源使用が高頻度で認められました。
  • 病態を理解した上で適切な治療や環境調整が行われれば、多くの患者に症状改善が見られるため、発症リスクの予測や周囲のケアが重要です。
概要

てんかん外科手術を受けた患者は、発作消失により生活の質が向上する一方で、急に本来の社会的活動を求められることがあります。環境変化による心理的負荷が増加すると予想されるものの、具体的な問題点は明らかにされていませんでした。
東北大学病院脳神経外科 大沢伸一郎講師らのグループは、てんかん外科手術で発作消失した患者の中に、心因性非てんかん発作(PNES)が新たに出現する場合があることを発見しました。これは手術を受けた患者の約20%に上り、従来考えられてきた発症率(3-4%程度)より遙かに高く、結果的に生活や治療上の不利益につながっていました。また、発作予期不安や既婚であることが発症リスクであることも明らかにしました。この病態は画像診断できないため、他にも多くの患者が診断されずにいると考えられます。本研究はてんかんの疾患啓発とともに、他分野に広く応用される重要な心理テーマの提示となることが期待されます。
本研究成果は、2025年10月5日にJournal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatryに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
てんかん外科手術は、成功すれば直後から発作消失をもたらし、患者の生活の質向上や人生設計を大きく変える可能性があります。一方で、それまで発作のために自身の能力を発揮できなかった患者が、発作消失をきっかけに、急に本来の社会的活動を求められることも考えられます。そのような「急に世間の荒波にこぎ出すことになった」患者は、心理的負荷が増加することが予想されるものの、具体的な問題点や身体症状に表れうるのか、これまで明らかではありませんでした。
研究グループは、心理的負荷によって“てんかん発作に似た症状”を呈する心因性非てんかん発作(以下、PNES)について、てんかん外科手術後の患者を対象に心理的負荷を可視化することを試みました。この研究は、発作消失という一見喜ばしいことの影に隠れてしまいがちな、患者の心理的葛藤を題材として、発作に限らず病気について回る心理的、社会的負荷を広く知ってもらうきっかけになるものです。

今回の取り組み
東北大学病院てんかんセンターでてんかん焦点切除術(脳外科手術)を行った99例の患者について、術後全例の経過をフォローし術後PNESの発症率を明らかにしました。また術後PNESを発症した患者について、症状の特徴や術前の心理社会的評価が発症リスクを予測できるか解析しました。診断、治療にはてんかん専門医、精神科医、公認心理師など多職種連携チームが参加しました。
その結果、てんかん外科手術の後に発作消失した患者の中に、新たなPNESが出現することを発見しました。これは手術を受けた患者の約20%に上り、従来考えられてきた発症率(3-4%程度)より遙かに高い数値で、生活の質改善を目標とする治療として無視できないものです。
術後PNESを発症した患者の特徴を解析すると(図1)、①予定外の医療利用が多い(86%)②結果的に不要な抗発作薬が増量されることが多い(81%)ことが分かりました。術後PNESは発症前に、術後に元々のてんかん発作がない”発作消失期間“を認めた人は多い(95.2%)にも拘わらず、てんかん専門医の外来でも明確な“新規発作”と認識されることが少なく(57.1%のみ)、結果的に不必要な治療や不利益の原因となっていました。この事実は、PNESがいかに日常診療で他の症状と判別しづらいかを如実に表しています。PNESは、明確な器質的異常が証明されないのに症状が続く機能性神経障害2(FND)の一部とされており、てんかん領域のみならず他の脳神経疾患、身体疾患の領域にも広く存在するとされています。しかし、器質的原因がないことを証明することは困難であることも相まって、真の発症率は不透明なままとなっています。また、術後PNESの患者には、術前の心理社会的評価で①発作不安が強いこと(オッズ比1.1倍)、②既婚者が多いこと(オッズ比16.1倍)が明らかになりました。これは発作に対する不安が周囲の刺激に対する心理的過敏性の反映や、社会的責任による「早く周りの人と同じ生活に戻らなくてはならない」と感じる心理的ストレスが発症に関与するメカニズムを推定させます。これは心理学的な理論Burden of Normality(正常の負荷)と合致します(図2)。
これらの結果は、患者本人がてんかん発作によって長期間制限された状況から急に解放された時、強い心理的ストレスに曝されることを意味しており、さらに適切な対処ができれば多くの方が症状改善することを証明しています。つまり主治医のみならず心理師や精神科医など、サポート可能な体制があれば、患者本人の早い回復のみならず、結果的に不要な医療コストを削減できる可能性を示しています。患者の悩みは、発作があるというだけではなく、病気であるというレッテルを貼られていること(スティグマ)や、長期に活動を制限されてきた社会的環境とも密接に関係しているという傍証でもあります。

今後の展開
本研究結果は、てんかんや脳領域で不明瞭だったPNESという病態に対して新知見を与えたのみならず、「状況が改善したように見える患者に、心理的負荷が増大して新たな症状を呈する」という、一見矛盾した病態を説明する具体例を示し、心理学的な重要テーマを提示しています。
本研究結果を応用して医療チームや患者の周囲の人に共有することで、手術や大きな治療の前後に生じる患者本人のストレスや不安を軽減し、結果的に不要な医療コストの増大や社会的不利益が改善することが期待されます。
また誰もが内在する心理的負荷とその対処について、一つの病態を通して考え議論が行われることで、より良いストレスとの付き合い方を構築していけるようになることが望まれます。

図1.術後PNESでは予定外の医療や薬剤変更が多く、それを主治医が認識しづらい。
図2.PNESの誘因、症状持続は心理的負荷の増大によるが、術後PNESでは発作消失自体が誘因となっている。
※BoN:Burden of Normality(正常の負荷)
謝辞

本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。
本研究は、鈴木匡子の厚生労働科学研究費(20GB1002、20GC1008)および文部科学省の科学研究費助成事業(新学術領域研究 20H05956、基盤研究B 21H03779)、小川舞美の若手研究(24K18696)の支援を受けて実施されました。

用語説明
  1. 心因性非てんかん発作:てんかん発作に似た症状を起こすが、てんかんが原因ではない心理的要因、精神的要因による発作です。以前は偽発作やヒステリーなどと呼ばれていましたが、本人が意識的に起こしていない場合も多く、その場合は「わざと起こしている」ものではありません。 ↩︎
  2. 機能性神経障害:身体的に症状が出ているにも関わらず、明らかな器質的原因(例えば画像上の異常)が診断できない状態を指します。運動麻痺や感覚異常、けいれんや発声・嚥下困難などがみられ、心理的ストレスが関与する場合が多いとされています。 ↩︎
論文情報

タイトル:Post-Surgical Psychogenic Non-Epileptic Seizure: a Treatment-Related Functional Neurological Disorder
著者:Shin-ichiro Osawa*, Maimi Ogawa, Hirotaka Iwaki, Yuko Akitsuki, Mayu Fujikawa, Kazushi Ukishiro, Kazutaka Jin, Atsushi Sakuma, Hiroaki Tomita, Kyoko Suzuki, Nobukazu Nakasato, and Hidenori Endo
*責任著者:東北大学病院 脳神経外科 講師 大沢伸一郎
掲載誌:Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
DOI:https://doi.org/10.1136/jnnp-2025-336913
URL:https://jnnp.bmj.com/content/early/2025/10/05/jnnp-2025-336913.long

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学病院脳神経外科
講師 大沢伸一郎
TEL:022-717-7230
Email:osws*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学病院広報室
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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