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核医学検査における医療スタッフの被ばく要因を特定 -リアルタイム線量評価による行動解析で安全対策を強化-

発表のポイント
  • 放射性医薬品を扱う核医学検査では、医療スタッフの被ばくリスクが高く、その要因の特定が難しいという課題があります。
  • 秒単位で線量を記録できるリアルタイム線量計1を活用し、作業中の被ばく上昇要因を初めて詳細に解析しました。
  • 心筋血流シンチグラフィ2検査において、右頸部の線量が最も高く、特に心電図リードの装着・除去時に線量ピークを確認しました。
  • 得られた知見は、作業姿勢や遮蔽配置の最適化など、核医学領域における行動ベースの被ばく低減策に貢献することが期待されます。
概要

核医学検査では、放射性医薬品を用いるため、医療スタッフが被ばくするリスクが高いことが知られています。しかし、従来の受動型線量計3は累積値しか記録できず、「いつ」「どの動作」で線量が上昇したのかを特定することは困難でした。
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の藤沢 昌輝大学院生、千田 浩一教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、半導体式リアルタイム線量計を用い、核医学技師の頭部および頸部に線量計を装着して、1秒ごとに線量を記録し時系列解析を行いました。その結果、心筋血流シンチグラフィ検査において、右頸部の線量が最も高く、心電図リードの着脱や注射後処置の際に一時的な線量上昇が生じることを明らかにしました。これにより、具体的な行動と被ばくの関連を科学的に可視化することができ、実際の現場に即した防護教育やレイアウト改善に役立つ成果が得られました。
本研究成果は2025年10月14日付でApplied Sciences誌(オンライン版)に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
核医学検査は、放射性医薬品を体内に投与して臓器の機能や代謝を画像化する検査法であり、診断精度の高い有用な手法として広く実施されています。一方で、医療スタッフは非密封放射性物質から放出されるγ線に日常的に曝されるため、職業被ばくリスクが高いとされています。
国際放射線防護委員会は、眼の水晶体線量限度を2011年に20 mSv/年(5年間で100 mSv)へと引き下げ、被ばく管理の強化を勧告しました。しかし、核医学領域では被ばく要因が作業内容や動線、個人の姿勢によって複雑に変化するため、従来の受動型線量計による累積線量測定では詳細な要因分析が困難でした。
特に、核医学検査では投与や画像撮影の間に患者へ直接接触する機会が多く、被ばくが発生する「タイミング」や「動作」の特定が課題となっていました。したがって、被ばく要因を定量的に明らかにするためには、時間的分解能に優れたリアルタイム線量計による行動解析が必要とされていました。

研究の内容
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の藤沢 昌輝(ふじさわ まさき)大学院生、千田 浩一(ちだこういち)教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、核医学検査の一つである心筋血流シンチグラフィ検査(図1)を対象として、放射性薬剤投与時と検査時における医療スタッフの作業中の放射線被ばくを実測し時系列解析を行いました。
半導体式リアルタイム線量計を使用して放射線技師の被ばく状況を1秒間隔で記録し、線量データと同時撮影したビデオ映像と照合し、作業工程ごとの線量変化を詳細に解析しました。その結果、放射性薬剤注射直後の操作(注射針の処理等)(図2)、心電図リードの装着・除去、患者移乗・体位調整などの作業の際に、線量のピークが検出されました。一方でSPECT4画像の撮像中には線量上昇は観察されませんでした(図3)。これにより、被ばくの主要因が患者との近接動作に集中していることが定量的に示されました。
これらの結果および調査手法は、核医学検査における職業被ばくを最適に低減するための新しいアプローチの基盤となりえます。

今後の展開
今後は、他の核医学検査や放射性医薬品を使用した治療へ拡張する予定です。また、職員教育プログラムや遮蔽板配置の設計に本結果を反映させることで、医療スタッフの安全確保と検査効率の両立が期待されます。

図1.心筋血流シンチグラフィのワークフロー
図2.薬剤投与時の平均線量率
平均線量率は放射性薬剤の投与中(右頸部:66.10 µSv/h)と投与後の処置(右頸部:40.41 µSv/h)で高い。特に右頸部の線量率が高く、放射性薬剤の投与中においては右頸部と左頭部および右頭部に有意差が認められた(Freidman-Nemenyi検定, いずれも p < 0.05)
図3.SPECT撮像時の平均線量率
平均線量率はポジショニングと心電図装置の装着時に特に高い(右頸部:66.26 µSv/h)。薬剤投与時同様、特に右頸部での被ばくが多い傾向があり、右頸部と左頭部および左頸部に有意差が認められた(Freidman-Nemenyi検定, いずれもp < 0.05)。撮像時には線量が計測されなかった。
謝辞

本研究の一部は、厚生労働省労災疾病臨床研究事業(240401-02、千田)、原子力規制庁の原子力規制人材育成事業(千田)、および JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2114、藤沢)の支援を受けて実施されました。
また本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。

用語説明
  1. リアルタイム線量計:1秒ごとなど高い時間分解能で放射線量を記録、表示できる半導体式電子線量計。 ↩︎
  2. 心筋血流シンチグラフィ:放射性医薬品(99mTc-MIBIや99mTc-tetrofosminなど)を静脈内に投与し、心筋への血流分布を画像化する核医学検査。虚血性心疾患の診断や治療効果判定に用いられる。 ↩︎
  3. 受動型線量計:放射線を検出した後、測定期間終了後に解析を行って累積線量を算出するタイプの線量計。 ↩︎
  4. SPECT:Single Photon Emission Computed Tomographyの略。放射性医薬品から放出される単一光子(γ線)を検出器で360度から収集し、コンピュータで三次元的に再構成する断層撮影法。心筋血流や脳血流などの機能評価に用いられる。 ↩︎
論文情報

タイトル:核医学検査の放射線技師における職業放射線被ばくのリアルタイムモニタリング:初期研究
Real-Time Monitoring of Occupational Radiation Exposure in Nuclear Medicine Technologists: An Initial Study
著者:藤沢昌輝*,曽田真宏,芳賀喜裕,田中茂久,片岡望,加藤聖規,加賀勇治,阿部美津也,鈴木正敏,稲葉洋平,千田浩一*
Masaki Fujisawa*, Masahiro Sota, Yoshihiro Haga, Shigehisa Tanaka, Nozomi Kataoka, Toshiki Kato, Yuji Kaga, Mitsuya Abe, Masatoshi Suzuki, Yohei Inaba and Koichi Chida*
*責任著者
掲載誌:Applied Sciences
DOI:10.3390/app152011008
URL:https://www.mdpi.com/2076-3417/15/20/11008

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
放射線検査学分野/災害放射線医学分野
教授 千田 浩一(ちだ こういち)
TEL:022-717-7943
E-mail:koichi.chida.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
Tel:022-717-8032
E-mail:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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