食物がつかえる食道アカラシア
亀井尚(東北大学病院 総合外科 上部消化管・血管グループ 科長)
2025.11.28 Fri
口から内視鏡入れ切開
一般的にはあまり知られていないと思いますが、食物のつかえ感を生じる病気に「食道アカラシア」というものがあります。
食道は喉から胃まで食物を通過させる消化管で、内側に粘膜があり、その外側が内輪筋、外縦筋と呼ばれる2重の平滑筋で構成されています。飲み込んだ食物をスムーズに流し込むためには、口側から順に筋肉が収縮、弛緩(しかん:緩むこと)を繰り返して動きます。これを、蠕動(ぜんどう)運動と言います。食道アカラシアおよび類似疾患は、この蠕動運動が障害されてつかえ感を生じます。
典型的なアカラシアは下部食道括約筋が弛緩しないことが原因で、胃に食物が流れていかず、食道内に貯留してしまいます。そのため、つかえ感のほか、体重減少、胸痛、朝起きると枕が汚れているような夜間の嘔吐(おうと)、嘔吐が原因の繰り返す肺炎などの症状を来します。ただ、命の危険を伴うような低栄養状態になることはありません。
詳しい原因不明
詳しい原因は明らかになっていませんが、筋肉を支配する神経に変性が起こっていることが報告されています。従来、10万人に1人の割合で発症するとされていましたが、医療者においてもこの病気の認知度が必ずしも高くないため、実際は、診断されていない患者さんが多数いることが推察されます。
診断がつかないまま症状に悩まされる期間が10年以上に及ぶ患者さんもいますし、若年女性では、神経性食思不振症(いわゆる拒食症)と誤診され、不要な向精神薬を投与されていることも少なくないようです。典型例はバリウム透視で簡単に診断がつきますが、昨今はクリニックを含めて透視検査が行われることが少なくなっています。
一方、内視鏡検査は多く行われていますが、アカラシアが念頭にないと見過ごされることも多いようです。蠕動に関係ない食道の収縮、食道内に食物残渣が貯留して水面を形成している、食道と胃の接合部(つなぎ目)がぎゅっと収縮したような見た目、などはアカラシアを疑う内視鏡所見です。食道アカラシアが疑われる場合は、さらに詳しい食道内圧検査を行うことで、類似疾患を含めて確定診断がつきます。
有効なPOEM
アカラシアの治療は、経口内視鏡的筋層切開術(POEM:Per Oral Endoscopic Myotomy)が開発され、急速に広まっています。経口挿入した内視鏡を用いて、弛緩しない筋層を切開する手術です。非常に効果が高く、体表に傷も付かない負担の少ない方法です。これまでの治療は、弛緩しない下部食道をバルーンで広げる拡張術や、腹部からの手術が行われてきました。再発率や身体への負担を考えると、POEMの有用性は高く、アカラシア治療の第1選択になると思われます。
もちろんPOEMは保険診療ですが、行うことができる施設が限られます。アカラシアを疑った場合、専門施設の早めの受診をお勧めします。
河北新報掲載:2022年2月11日
一部改訂:2025年11月28日
亀井 尚
(かめい たかし)
岩手県出身。東北大学大学院医学系研究科を修了。東北大学大学院医学系研究科消化器外科学分野を講師、准教授を経て、2016年教授に就任。