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肥満・糖尿病治療に広がる「手術」という新たな選択肢

井本博文(東北大学病院 総合外科 上部消化管・血管グループ 講師)

 近年、食の欧米化などにより、肥満症やそれに伴う高血圧・糖尿病・脂質異常症といったいわゆるメタボリック症候群が増加しています。中でも糖尿病は、長期間にわたって治療を続ける必要があることも多く、日々の生活の中で負担を感じている方も少なくありません。

胃を小さくし、体の内側から代謝を改善

 肥満症に対する外科治療である「減量手術」をご存じですか?肥満に対する手術というと、脂肪吸引などの美容外科手術を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、減量手術はそれとは全く異なります。胃を小さくすることで食事量や食欲を抑え、さらに腸管バイパスを組み合わせることもある外科手術です。腸管バイパスを行うことで、食べ物が通るルートが短くなり、栄養の吸収を抑制するだけではなく、体の内側から代謝を改善する効果があることが分かってきました。

 このように、体重を減らすだけでなく、糖尿病をはじめとする代謝疾患そのものを改善する効果が期待できることから、現在では「減量・代謝改善手術」と呼ばれています。

日本でも広がる減量・代謝改善手術

 減量・代謝改善手術は欧米では以前から広く行われてきましたが、日本では比較的歴史の浅い治療法です。2014年に、胃の大部分を切除して細長く形成する「スリーブ状胃切除術」が保険適用となりました。さらに2018年には、スリーブ状胃切除術に腸管バイパスを組み合わせた「スリーブ・バイパス術」が先進医療として承認され、2024年には同術式も保険適用となりました。

 国内の手術件数は年々増加しており、近年では年間900件を超えるまでになっています。これらの手術は主に腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いて行われるため、傷が小さく、体への負担が比較的少ないことも特徴です。

優れた糖尿病改善効果

 減量・代謝改善手術による体重減少効果は非常に高く、術後1年間で体重のおよそ3割が減少するとされています。さらに注目されているのが、糖尿病など肥満に関連する代謝疾患に対する改善効果です。特に腸管バイパスを組み合わせた手術では、糖尿病の改善効果が高く、インスリンを大量に使用しているような重症の糖尿病であっても、治療が不要になる、あるいは大幅に軽減されるケースが多く報告されています。

 長年にわたり内服薬や注射による治療を続けてきた糖尿病患者さんにとって、手術によって「治癒」や「大きな改善」を目指せる可能性があることは、画期的な進歩といえるでしょう。

減量・代謝改善手術の適応対象が拡大

 スリーブ状胃切除術の適応は、体格指数(BMI)35以上で、糖尿病・高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群(SAS)・非アルコール性脂肪性肝疾患などの、肥満に関連した合併症を有する方とされています。さらに近年では、BMIが32〜34.9であっても、これらの肥満関連疾患を2つ以上合併している方へも適応が拡大されました。一方、スリーブ・バイパス術の適応は、BMI 35以上で糖尿病を合併している方が対象となっています。実際の適応については、年齢や全身状態、これまでの治療経過などを踏まえて、専門医が総合的に判断します。

 糖尿病治療の選択肢として

 減量・代謝改善手術は、肥満症に対する治療であると同時に、糖尿病治療の新たな選択肢として大きな注目を集めています。肥満症や糖尿病で治療に悩んでいる方がいれば直接、またはかかりつけ医を通して、まずはご相談ください。

河北新報掲載:2022年8月26日
一部改訂:2026年1月16日

井本 博文
(いもと ひろふみ)

東京都出身。2004年東北大学医学部卒業。2012年東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。2015年より東北大学病院胃腸外科(現 総合外科)助教、2024年同病院講師就任。専門は上部消化管疾患の外科治療。

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