発表のポイント
- 環境省の子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査1)のデータを使用し、約3万6千組の母子のデータを解析しました。
- 絵本の読み聞かせ頻度が高いほど、3歳時点での発達スコア(ASQ-32)が5つの発達領域3すべてにおいて高いことを明らかにしました。
- 1歳時点で発達の遅れが見られた子どもにおいても、継続的な読み聞かせを行うことで、その後の発達スコアの改善が見られました。
- 読み聞かせの頻度が高い家庭では、子どもおよび親のスクリーンタイム(スマホやテレビの試聴時間)が短い傾向を確認しました。
概要
これまで、読み聞かせが言語能力に良い影響を与えることは知られていましたが、運動能力や社会性を含む広範な発達領域への影響については十分に解明されていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野の大学院生中村 春彦医師、同科発達環境医学分野の大田 千晴教授らの研究グループは、環境省が実施している「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する約10万人のうち、必要な情報が揃っている36,866組の母子ペアのデータを用いて、絵本の読み聞かせが幼児期の発達に与える影響を検討しました。その結果、3歳時点での発達スコアを用いた解析では、読み聞かせの頻度が高いほど、5つの発達領域すべてにおいて良好な発達と関連することを見出しました。この関連は、親の学歴や収入、子どもとの遊びの頻度、メディアへの接触時間などの影響を考慮して調整しても独立していました。また、読み聞かせの頻度が高い家庭では、子どものテレビ・DVD視聴時間や、親が子どもの近くでスマートフォンなどを操作する時間が短いことも明らかにしました。
本研究成果は、2026年1月8日に、小児科学分野の学術誌「Pediatric Research」に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
乳幼児期は、認知、運動、社会性の発達において極めて重要な時期です。絵本の読み聞かせは、親子の双方向のコミュニケーションを促し、子どもの脳の発達に寄与する活動として推奨されています。しかし、これまでの研究は主に「言語能力」への影響に焦点が当てられていました。一方、運動面や社会面などを含めた包括的な発達にどのような影響を与えるかは、大規模なデータでは明らかにされていませんでした。
研究の内容
東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野の大学院生中村 春彦(なかむら はるひこ)医師、同科発達環境医学分野の大田 千晴(おおた ちはる)教授らの研究グループは、エコチル調査に参加した約10万人のデータのうち、必要な情報が揃っている36,866組の母子ペアを対象に分析を行いました。親が回答した「絵本の読み聞かせ頻度」と、3歳時点での子どもの発達指標「ASQ-3(Ages and Stages Questionnaires, Third Edition)」のスコアとの関連を調べました。
1.読み聞かせ頻度と発達スコアの正の相関
解析の結果、読み聞かせの頻度が高いほど、5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人-社会)すべてにおいて発達スコアが高いことが判明しました。特にコミュニケーション領域では、読み聞かせを「頻繁に行う(週5回以上)」グループでは、「ほとんどない」グループと比較して、スコアが大幅に高い結果でした(図1)。重要な点として、この関連性は、親の学歴や世帯収入などの社会経済的要因や、子どもと一緒に遊ぶ時間、メディア視聴時間(スクリーンタイム)の影響を取り除いても(統計的に調整しても)、有意な関連がみられました(図2)。これは、読み聞かせという行為自体が、独立して子どもの発達にプラスの影響を与えている可能性を示唆しています。
2.発達に遅れがある子どもへの効果
1歳時点でASQ-3のスコアが基準を下回り、スコアごとの発達の遅れの可能性4が疑われた子どもに注目して解析を行いました。その結果、その後3年間にわたり継続的に高い頻度で読み聞かせを受けていたグループは、読み聞かせ頻度が低かったグループに比べ、3歳時点での発達スコアが有意に高いことが分かりました。
3.スクリーンタイムとの関連
読み聞かせの頻度が高い家庭では、子どものテレビ・DVD視聴時間や、親が子どもの近くでスマートフォンなどを操作する時間が短いことも明らかになりました。読み聞かせは、子どもの発達への悪影響が懸念される、長時間のスクリーンタイムを減らす役割をもつ可能性があります。
今後の展開
本研究により、絵本の読み聞かせが単なる言語学習にとどまらず、運動や社会性を含む子どもの全般的な発達を促す可能性が示されました。また、絵本の読み聞かせは、発達に遅れが見られる子どもに対しても、家庭でできる有効な介入の一つである可能性が示唆されました。
現代社会ではデジタルデバイスの普及が進んでいますが、親子の対面での相互作用である「読み聞かせ」の重要性を再認識させる科学的根拠となることが期待されます。

読み聞かせの頻度が高いほど、5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人-社会)すべてにおいて発達スコアが高いことが判明しました。特にコミュニケーション領域では、読み聞かせを「頻繁に行う(週5回以上)」グループでは、「ほとんどない」グループと比較して、スコアが大幅に高い結果でした。

親の学歴や世帯収入などの社会経済的要因や、子どもと一緒に遊ぶ時間、メディア視聴時間(スクリーンタイム)の影響を取り除いても(統計的に調整しても)、有意な関連がみられました。
用語説明
- エコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査):胎児期から小児期にかけての化学物質曝露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、環境省が2010年度から開始した大規模かつ長期的な出生コホート調査です。 ↩︎
- ASQ-3(Ages and Stages Questionnaires, Third Edition):子どもの発達の進み具合を把握するために世界的に使用されているスクリーニング検査法です。保護者が質問票に回答する形式で、5つの領域の発達を評価します。 ↩︎
- 5つの発達領域:コミュニケーション(言葉による意思疎通)、粗大運動(走る、跳ぶなどの大きな体の動き)、微細運動(手先を使う細かい動き)、問題解決(おもちゃの使い方を考えるなど)、個人-社会(対人関係や生活習慣)の5つの領域です。 ↩︎
- 発達の遅れの可能性:ASQ-3 スコアが同年齢平均の −2SD を下回る場合、“発達の遅れが疑われる状態” としました(確定診断ではありません)。 ↩︎
論文情報
タイトル:Impact of Shared Storybook Reading on Child Development: The Japan Environment and Children’s Study
絵本の読み聞かせが子どもの発達に与える影響:エコチル調査
著者:Haruhiko Nakamura, Tomohisa Suzuki, Keita Kanamori, Chiharu Ota, The Japan Environment and Children’s Study Group
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野教授 大田千晴
掲載誌:Pediatric Research
DOI:10.1038/s41390-025-04721-7
URL : https://doi.org/10.1038/s41390-025-04721-7
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 発達環境医学分野
教授 大田 千晴(おおた ちはる)
TEL:022-717-8949
Email:chiharu.ota.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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