がん診断時からの緩和ケア
井上彰(東北大学病院 緩和医療科 科長)
2026.1.30 Fri
不安や課題の解消支援
がん(悪性腫瘍)は国民の死因の第1位で、著名人が亡くなったニュースを見聞きするだけでなく、皆さんの周りにも命を落とされた方がいると思います。幸いにも早期発見(診断)できれば、根治を目指した外科的切除(手術)や放射線治療を勧めることができます。根治が難しくなった進行期でも近年は抗がん剤の進歩が著しく、根治に近いほどの長期生存が得られる方が珍しくありません。
終末期イメージ
一方で緩和ケアは、それらの「がんと闘う治療」を終えた患者さんが、亡くなる直前(いわゆる終末期)の身体のつらさを和らげるために受ける医療というイメージが強いのではないでしょうか?
実際には、緩和ケアを抗がん治療とともに受けることで、患者さんの生活の質(QOL)の維持だけでなく生存期間も延ばすことが科学的に証明され、世界的に緩和ケアの開始時期は早まっています。当院でも、私たち緩和医療科が担当する患者さんの半数以上は、抗がん治療中から主治医と連携しています。
さらに一歩進んで、厚生労働省は「がんと診断された時からの緩和ケア」の普及に取り組んでいます。早期がんも含め、診断の段階から緩和ケアを治療に取り入れましょうということです。
ショックで離職
「痛くも苦しくもないのに緩和ケアが何の役に立つのか?」と疑問の方も多いでしょう。ただ、たとえ早い段階で見つかっても、がんという重病を患ったことで不安を抱き、不眠や気分の落ち込みに悩みます。「びっくり離職」といって、診断のショックで後先考えずに仕事を辞めて後悔する例もあります。さまざまな検査・治療が続く中で、仕事や家事との両立も課題となります。
このような心理社会的問題は、主治医だけでは対処できないことが少なくありません。その解決を支援するのも緩和ケアの大事な役割の一つです。肉体的な苦痛を和らげるのはもちろん、さまざまな専門家が心理社会面の負担軽減に努めます。介護保険や在宅診療のメリットを十分に生かすことで、自宅療養をより快適なものにすることもできます。
多くの病院には、患者さんと家族が気軽にがん治療について相談できる窓口が設置されています。当院でも「がん診療相談室」や緩和医療科が中心となって「がんと診断された時からの緩和ケア」に積極的に取り組んでいます。2人に1人が経験するとされるがん。他人事ととらえずに理解を深めていただけると幸いです。
河北新報掲載:2022年11月11日
一部改訂:2026年1月30日
井上 彰
(いのうえ あきら)
秋田県出身。1995年秋田大学医学部卒業。国立がんセンター中央病院レジデント、医薬品医療機器審査センター勤務を経て、2003年東北大学病院呼吸器内科助教、2012年同臨床研究推進センター特任准教授。2015年に東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野教授に就任。専門は緩和医療学、臨床腫瘍学。