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「受け口」患者の咀嚼時脳血流と認知機能の関連を解析 -患者群内で相関関連が認められることを確認-

発表のポイント
  • 受け口(反対咬合1)の患者は、噛むときの脳血流が約半分程度まで低下している一方、若年期における認知機能は健常者と比較して同等であることを確認しました。
  • 患者群内では、咀嚼時の脳血流量と認知機能との間に正の相関関係が認められました。
  • 本研究により、反対咬合が咀嚼時脳血流や認知機能と関連する可能性が示されました。
概要

高齢者において歯の喪失や咀嚼機能の低下が認知症のリスクを高めることは明らかにされてきました。しかし、反対咬合などの顎変形症を持つ患者においてもそのリスクがあるのか、認知機能がどのような状態にあるのかについては、これまで一度も調査されていませんでした。
東北大学病院矯正歯科の菅崎弘幸講師らの研究グループは、反対咬合患者と健常者を対象に脳血流量の測定と認知機能の包括的な評価を行い、咀嚼時の脳血流量と認知機能との関連を検討しました。その結果、反対咬合患者では咀嚼時の脳血流が低下しているものの、若年期では認知機能の数値において健常者と同等であることを確認しました。しかし、反対咬合患者群内においては、咀嚼時脳血流と認知機能の間に正の相関関係が見られました(図1)。
本研究により、反対咬合が咀嚼時脳血流や認知機能と関連する可能性が示されました。
本研究成果は、2026年1月16日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
高齢者において、歯の喪失や咀嚼機能の低下が認知症のリスクを高めることは、これまでの研究で明らかにされてきました。咀嚼は脳の複数の領域を活性化し、記憶や学習に重要な役割を果たすことが知られています。
一方、反対咬合などの顎変形症を持つ患者は、生まれつきあるいは成長期から咀嚼機能が低下した状態が続いています。こうした患者の認知機能がどのような状態にあるのか、これまで一度も調査されていませんでした。顎変形症は日本人にも一定の割合で存在し、特に反対咬合が最も多いタイプです。これらの患者では、咬合機能が正常な人に比べて咀嚼効率が30〜50%低下していることが報告されています。

今回の取り組み
東北大学病院矯正歯科の菅崎 弘幸(かんざき ひろゆき)講師らの研究グループは、反対咬合患者44名(25.0 ± 10.4歳)と健常者59名(44.8 ± 3.0歳)を対象に、脳血流量の測定と認知機能を評価しました。脳血流の測定には、近赤外分光法(fNIRS)2という装置を用いて、咀嚼中の脳血流量を測定しました。特に、認知機能に重要な役割を果たす「下前頭回3」という脳の領域に注目しました。また、認知機能の評価には、アイトラッキング4技術を用いた最新の認知機能評価システム「Mirudake」を使用し、認知機能を6つの領域に分け包括的に評価しました。
その結果、反対咬合患者では、咀嚼時の下前頭回(左右両側)における脳血流量が、健常者に比べて有意に低下していることが明らかになりました(p<0.05 マンホイットニーU検定)。全般的な認知機能スコアにおいては、反対咬合患者と健常者の間に統計的な有意差は認められませんでした(信頼区間が許容範囲(±5.5)内にあり、同等と判定)。これは、若年の反対咬合患者が、発達期からの適応により認知機能を維持している可能性を示唆しています。ただし、反対咬合患者群内において咀嚼時の脳血流量と認知機能(特に総合点と記憶力)の間に、正の相関関係があることが示されました(図2)。

今後の展開
本研究により、反対咬合患者において、咀嚼時の脳血流量と認知機能との間に関連が認められ、認知機能が保たれている若年期においても、脳機能の個人差が存在する可能性が示唆されました。今後は、こうした個人差が将来的な認知機能の変化とどのように関係するのかを明らかにするとともに、顎矯正手術を含む咬合改善治療が脳機能に与える影響について検証していく必要があります。
なお、本研究は一時点でのデータをもとにした分析であるため、「噛む力の改善が認知機能を高める」といった因果関係を示すものではありません。

図1.本研究結果の概念図
受け口の方は噛みにくく、噛むときの脳への血流も少なくなっています。 この研究では、噛むときの脳血流と記憶力に関連があることを発見しました。
図2.反対咬合患者の咀嚼時脳血流に対する認知機能の相関
認知機能6領域のうち、記憶や判断に統計学的有意な正の相関が観察され、総合点においても正の相関が認められました。このことは咀嚼時脳血流が高ければ高いほど認知機能が高く、逆に咀嚼時脳血流が低いとそれだけ認知機能が低いことを示しています。
謝辞

本研究課題は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP23K09449、JP24K13186)の支援を受けて実施されました。

用語説明
  1. 反対咬合:下顎が上顎より前方に位置する状態。いわゆる「受け口」のこと。 ↩︎
  2. 近赤外分光法(fNIRS):近赤外光を用いて、脳の血流量を非侵襲的に測定する技術。 ↩︎
  3. 下前頭回:前頭葉の一部で、認知機能や言語処理に重要な役割を果たす脳領域。 ↩︎
  4. アイトラッキング:眼球の動きを追跡する技術。認知機能の評価に有効。 ↩︎
論文情報

タイトル:Association between reduced chewing-induced brain blood flow and cognitive performance in mandibular prognathism patients in a pilot study
著者:Yuri Inagawa, Hiroyuki Kanzaki*, Chihiro Kariya, Saki Tanaka, Masao Kumazawa, Hiroshi Tomonari
*責任著者:東北大学病院矯正歯科 講師 菅崎弘幸
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-026-35964-x
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-35964-x

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学病院 矯正歯科
講師 菅崎 弘幸(かんざき ひろゆき)
TEL:022-717-8374
Email:hiroyuki.kanzaki.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学病院
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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