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「高密度化×極微小化」で膵臓がんまで届く 抗がん剤ナノ粒子の作製に成功

発表のポイント
  • プロドラッグ1のみで構成される約30nmのナノ粒子が高濃度に分散した薬剤(極微小ナノ・プロドラッグ)の開発に成功しました。
  • 上記極微小ナノ・プロドラッグを、膵臓に腫瘍が形成したマウスに投与したところ、腫瘍の成長を抑制することを確認しました。
  • 従来の薬剤が届きにくい膵臓がんに送達可能な薬剤形態を実現し、今後、実用化に向けて臨床研究の進展が期待されます。
概要

膵臓がんは、周辺の間質が発達しており、抗がん剤が腫瘍内部へ届きにくい難治性のがんです。サイズを粒径200nm以下に制御したナノ薬剤をがん病巣へ効率的に集積させる研究が活発に行われてきましたが、膵臓がんの場合、より極微小な30nm程度でなければ効率的に集積しないことが報告されていました。
東北大学多元物質科学研究所の笠井均教授らの研究グループは、膵臓がん周辺の間質2を通過し、高い薬理活性と低い毒性を両立する抗がん剤ナノ粒子の作製に成功しました。本研究グループは、プロドラッグのみで構成され、従来型ポリマーキャリア系ナノ薬剤に比べて高密度であることを特徴とするナノ薬剤「ナノ・プロドラッグ」を提案してきました。今回、30~400nmで自在に粒径を制御したナノ・プロドラッグを作製し、膵臓がんに対するサイズ依存性と薬理効果を評価しました。
本極微小ナノ・プロドラッグは、サイズの大きいナノ・プロドラッグ(200nm)と比較して高い抗腫瘍活性を示しました。さらに、がん細胞内でSN-38(抗がん活性化合物)3が選択的に遊離しやすい特徴を有するため、試験を通じて重篤な毒性は確認されず、臨床研究への進展が期待されます。
本研究の成果は、1月30日に、学術誌RSC Pharmaceuticsに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
腫瘍組織周辺の血管内皮に150~200nmの隙間が存在することを利用し、粒径200nm以下で作製したナノ薬剤をがん病巣へ効率的に集積させる研究が活発に行われてきました。しかしながら難治性膵臓がんの場合、周囲の発達した間質が薬剤の透過を妨げるため、より極微小な粒径30nm以下でのナノ粒子作製が鍵になると考えられています。また従来のナノ薬剤の作製法としては、リポソームや高分子ミセル等のナノキャリアと呼ばれる担体に薬物を内包させる手法が提案されていますが、ナノキャリアによる抗原性の発現や、1つの粒子に担持可能な薬物の量が少ない等の問題点が指摘されていました。
研究グループは、従来のナノ薬剤の問題点を改善するために、プロドラッグのみで構成されるナノ薬剤「ナノ・プロドラッグ」を提唱し、SN-38のプロドラッグに関する研究してきました。これまでに、粒径100nmで安定に分散するナノ・プロドラッグの作製に成功していましたが、極微小サイズで安定に分散する高濃度分散液の作製は達成していませんでした。

今回の取り組み
今回、ナノ薬剤を作製する際の条件(温度、濃度、溶媒比率、添加剤など)を詳細に検討することで、粒径30~400nmの範囲でナノ・プロドラッグのサイズを制御することに成功しました(図1)。全てのナノ・プロドラッグは6.3mMの高濃度で作製が可能で、生理食塩水においても1ヶ月以上の高い分散安定性を示しています。さらに、がん細胞の中に高濃度で発現する化合物をトリガーとして活性本体であるSN-38を放出するため、生体に投与後、血中での早期代謝によるSN-38の放出が生じにくい設計となっています。
極微小ナノ・プロドラッグが膵臓がんの間質を透過し、抗腫瘍活性を発揮するかを評価するためには、実際の膵臓がんの微小環境を再現できるモデルでの実験が必要でした。今回、粒径が30、100、200nmと異なるナノ・プロドラッグを、東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野(川上グループ)の同所性移植マウス(膵臓に腫瘍を形成したマウス)に一日おきに5回投与することで抗腫瘍活性を評価しました。サイズが大きい粒径200nmのナノ・プロドラッグを投与した群は、薬剤投与をしなかった群と同程度まで腫瘍が成長したのに対して、粒径30nmの極微小ナノ・プロドラッグは腫瘍の成長を抑制しました(図2)。つまり、SN-38として同量のナノ・プロドラッグを投与したにもかかわらず抗腫瘍活性に差が生じました。以上の結果は、膵臓がん治療にはナノ薬剤のサイズが非常に重要であり、キャリアフリーで「薬剤高密度×極微小」なナノ・プロドラッグが膵臓がんに対して高い薬理活性を有することを示しています。

今後の展開
研究チームは、極微小ナノ・プロドラッグの臨床研究への進展に向け、大量作製方法の確立とさらなる毒性/安全性試験をおこなう計画を立てています。ナノ薬剤の極微小化により生体組織透過性の向上が期待されるため、将来的にはその他の疾患に対するナノ薬剤(点眼薬など)の開発にもつなげることを目指しています。

図1.異なるサイズで作製したナノ・プロドラッグのSEM像
図2.膵臓がん同所性移植マウスに対する抗腫瘍活性の評価
謝辞

本研究の成果は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2114)および日本学術振興会科学研究費補助金(研究代表者:笠井均(JP22H00328)、小関良卓(JP25K09889))の支援を受けて行われました。

用語説明
  1. プロドラッグ:そのままでは不活性な、もしくは明らかに活性の低い形態で投与される医薬品。プロドラッグは投与されると、生体による代謝作用を受けて活性代謝物へと変化し、薬効を示す。ナノ・プロドラッグはプロドラッグのみで構成されるナノ粒子である。 ↩︎
  2. 膵臓がん周辺の間質:線維芽細胞やコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成される組織。膵臓がん周辺は間質が発達しており、抗がん剤が腫瘍内部へ届きにくい難治性のがんとして知られている。 ↩︎
  3. SN-38:I型トポイソメラーゼ阻害薬であり、非常に高い抗がん活性を示す。SN-38は水に難溶であるため、水溶性のプロドラッグである塩酸イリノテカンの形態でがん治療に用いられている。 ↩︎
論文情報

タイトル:Overcoming Stromal Barriers in Pancreatic Cancer via Size-Engineered Carrier-Free Nano-Prodrugs
著者:Mengheng Yang, Ryuju Suzuki, Yoshitaka Koseki, Shuto Kodera, Ken Saijo, Hisato Kawakami, Keita Tanita, Sanjay Kumar, Kouki Oka, Hitoshi Kasai*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 笠井 均
掲載誌:RSC Pharmaceutics
DOI:10.1039/D5PM00364D
URL:https://doi.org/10.1039/D5PM00364D

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 笠井 均(かさい ひとし)
TEL:022-217-5612
Email:kasai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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