発表のポイント
- 口腔扁平上皮がん1検出における唾液・血漿・血清由来microRNA(miRNA )2の診断性能を、初めて同一フレームワークで比較した包括的メタ解析3を実施しました。
- 唾液、血漿、血清いずれにおいても、miRNA は中等度から高い診断精度を示し、侵襲的なリキッドバイオプシー4としての有用性を確認しました。
- 血清由来 miRNA は最も高い精度を示しましたが、メタ解析により、体液の種類によって診断性能に明確な差がないことを明らかにしました。
概要
口腔扁平上皮がんは、早期発見および早期治療が重要な疾患ですが、現在の標準的な診断法は生検を含む侵襲的手技に依存しており、非侵襲的かつ高い信頼性を有するバイオマーカーの確立が求められています。
東北大学大学院歯学研究科顎顔面口腔腫瘍外科学分野のArbi Wijaya大学院生、杉浦剛教授、東北大学病院歯科顎口腔外科の東友太郎医員らの研究チームは、口腔扁平上皮がん検出におけるmiRNAバイオマーカーの診断性能を評価するため、体系的レビューおよびメタ解析を実施しました。
その結果、3種類の生体液の中では血清由来miRNAが最も高い統合診断性能を示したものの、生体液の種類は全体的な診断精度に有意な影響を及ぼさないことを明らかにしました。これらの結果は、臨床的に有用なmiRNAが、生体液の種類に依存せず安定して検出可能であることを示唆しています。
本研究成果は、2026年1月16日にJournal of Personalized Medicine(MDPI)に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
口腔扁平上皮がんは、早期発見および早期治療が予後改善に直結する疾患です。しかしながら、現在の標準的な診断法は生検を含む侵襲的手技に依存しており、非侵襲的かつ高い信頼性を有するバイオマーカーの確立が求められています。近年、microRNA(miRNA)は唾液や血液中において安定に検出可能であることから、口腔扁平上皮がんの新規診断マーカーとして注目されています。一方で、異なる生体液間におけるmiRNAの診断性能の差異については、これまで体系的な検証が十分になされていませんでした。
今回の取り組み
東北大学大学院歯学研究科顎顔面口腔腫瘍外科学分野のArbi Wijaya(アルビ ウィジャヤ)大学院生、杉浦剛(すぎうら つよし)教授、東北大学病院歯科顎口腔外科の東友太郎(ひがし ゆうたろう)医員らの研究チームは、口腔扁平上皮がん検出におけるmiRNAバイオマーカーの診断性能を評価するため、体系的レビューおよびメタ解析を実施しました。
本メタ解析は、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに準拠して実施しました。検索戦略の策定、研究の適格性評価、データ抽出および統計解析を含むすべての方法論的手順は、透明性および再現性を担保するため事前に規定しました。なお、本研究のプロトコルは、国際的系統的レビュー事前登録データベースであるPROSPEROに、登録番号CRD420251245619として事前登録されています。本研究では、生体液の種類に基づき、唾液、血清、血漿の 3種類の診断サブグループ解析を行うとともに、すべてのmiRNAマトリクスを統合した全体解析を実施しました。統合感度5、統合特異度6およびAUC7の推定には、全体解析および各生体液別サブグループ解析においてランダム効果モデルを適用しました。また、全体および生体液別の診断性能を視覚的に評価するため、フォレストプロット8およびSROC曲線9を作成しました。
解析の結果、唾液由来miRNAでは、統合感度は0.76(95%信頼区間[CI]:0.68–0.82、I²=84.69%、統合特異度は0.79(95% CI:0.70–0.85、I²=70.41%、AUC は0.84(95% CI:0.80–0.87)を示しました(図1)。血漿由来miRNAでは、統合感度0.77(95% CI:0.61–0.88、I²=90.45%、統合特異度0.79(95% CI:0.63–0.89、I²=80.20%、AUC0.85(95% CI:0.81–0.89)と、全体解析と同程度の診断性能が認められました(図3)。一方、血清由来miRNAは最も高い診断精度を示し、統合感度0.82(95% CI:0.70–0.90、I²=76.92%、統合特異度0.88(95% CI:0.75–0.95、I²=74.87%、AUC 0.91(95% CI:0.89–0.94)でした(図2)。しかしながら、血清由来miRNAは数値上では高い診断性能を示したものの、メタ解析の結果、生体液の種類が診断精度に及ぼす影響は統計学的に有意ではありませんでした(Wald χ²=0.20、p=0.903(図4)。
今後の展開
本研究の結果は、唾液を含む複数の生体液を用いたmiRNA検査が、口腔扁平上皮がんのスクリーニングやリスク層別化における補助的診断ツールとして応用可能であることを示唆しています。特に、血清由来miRNAは、感度、特異度およびAUCのいずれにおいても最も高い統合診断性能を示しました。今後は、前向き臨床研究や多変量解析を通じて、実臨床に即したmiRNA診断戦略の確立が期待されます。

(A)19件の研究を対象とした唾液由来miRNAの感度を示すフォレストプロット;(B)唾液由来miRNAの特異度を示すフォレストプロット;(C)唾液由来miRNAにおける感度、特異度、およびAUCの推定値を示すSROC曲線。

(A)19件の研究を対象とした血清由来microRNAの感度を示すフォレストプロット;(B)血清由来miRNAの特異度を示すフォレストプロット;(C)血清由来miRNAにおける感度、特異度、およびAUCの推定値を示すSROC曲線。

(A)19件の研究を対象とした血漿由来miRNAの感度を示すフォレストプロット;(B)血漿由来miRNAの特異度を示すフォレストプロット;(C)血漿由来microRNAにおける感度、特異度、およびAUCの推定値を示すSROC曲線。

謝辞
本研究は、東北大学、インドネシア大学(Universitas Indonesia)、およびインドネシア・ジャカルタのダルマイス国立がんセンター病院との国際共同研究として実施されました。本研究の遂行にあたり、ご協力いただいたすべての研究者および関係機関に深く感謝申し上げます。なお、本研究は東北大学「2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業(ハイインパクト)」の支援を受けて実施されました。
用語説明
- 口腔扁平上皮がん(Oral Squamous Cell Carcinoma:OSCC):口腔粘膜の扁平上皮細胞から発生する悪性腫瘍で、口腔がんの中で最も頻度が高い。舌、歯肉、口底、頬粘膜などに発生し、早期診断が予後改善に重要である。 ↩︎
- microRNA(miRNA):microRNA は遺伝子発現を制御する短鎖非コード RNA であり、がんを含む多くの疾患で発現異常が報告されている。血液、唾液などの体液から安定して検出可能であることから、非侵襲的バイオマーカーとして注目されている。 ↩︎
- 包括的メタ解析(Comprehensive Meta-analysis):複数の独立した研究結果を統合・定量的に解析し、全体としてのエビデンスを評価する統計手法。診断精度や治療効果の総合的評価に用いられる。 ↩︎
- リキッドバイオプシー(Liquid Biopsy):血液、唾液、尿などの体液を用いて、腫瘍由来の核酸や細胞成分を解析する非侵襲的検査手法。がんの早期診断やモニタリングに有用である。 ↩︎
- 統合感度(Pooled Sensitivity):メタ解析において複数研究の感度を統合して算出した指標で、疾患を正しく陽性と判定できる割合を示す。 ↩︎
- 統合特異度(Pooled Specificity):メタ解析において複数研究の特異度を統合して算出した指標で、疾患でないものを正しく陰性と判定できる割合を示す。 ↩︎
- AUC(Area Under the Curve:曲線下面積):ROC 曲線下面積を表す指標で、診断検査の全体的な識別能を評価する。値が1に近いほど診断精度が高い。 ↩︎
- フォレストプロット(Forest Plot):各研究の効果量と信頼区間、ならびに統合推定値を視覚的に示す図で、メタ解析の結果表示に用いられる。 ↩︎
- SROC曲線(Summary Receiver Operating Characteristic Curve:要約ROC曲線):診断精度研究において、複数研究の感度・特異度を統合して示すROC曲線で、全体的な診断性能を評価する。 ↩︎
- 診断オッズ比(Diagnostic Odds Ratio:DOR):感度と特異度を統合して算出される診断性能指標であり、値が高いほど疾患識別能が高いことを示す。 ↩︎
論文情報
タイトル:Comparative Meta-Analysis: Salivary, Plasma, and Serum miRNA Profiles for Oral Squamous Cell Carcinoma Detection
口腔扁平上皮がん検出のための唾液・血漿・血清miRNAプロファイルの比較メタ解析
著者:Arbi Wijaya*, Vera Julia, Nurtami Soedarsono, Turmidzi Fath, Bayu Brahma, Alif Rizky Soeratman, Denni Joko Purwanto, Yutaro Higashi, Masaaki Miyakoshi and Tsuyoshi Sugiura
*責任著者:東北大学大学院歯学研究科顎顔面口腔腫瘍外科学分野 Arbi Wijaya大学院生
掲載誌:Journal of Personalized Medicine(MDPI)
DOI:10.3390/jpm16010052
URL:https://www.mdpi.com/2075-4426/16/1/52
問い合わせ先
東北大学大学院歯学研究科
顎顔面口腔腫瘍外科学分野
教授 杉浦 剛
TEL:022-717-8350
Email:tsuyoshi.sugiura.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
- 関連資料
- 詳細(PDF)
- 関連リンク
- 歯科顎口腔外科