骨格筋修復を促進する新たな分子の発見 -筋ジストロフィーの治療標的として期待-
2026.3.19 Thu
研究発表のポイント
- ジスフェルリン異常症は、骨格筋の細胞膜タンパク質ジスフェルリン1が欠損し、細胞膜修復機能が損なわれることで発症する筋ジストロフィー2で国の指定難病です。
- ジスフェルリン欠損マウスを用いた実験で、骨格筋の細胞膜修復を促進する因子としてCK2α3を見出し、同じく細胞膜修復に関わるannexin A14のリン酸化に関与している可能性が示されました。
- 今後は、ジスフェルリン異常症をはじめとした筋ジストロフィーの新たな治療標的となる可能性が期待されます。
概要
損傷が起きやすい骨格筋では、微小な傷に対応する細胞膜修復は重要な機能です。ジスフェルリン異常症はジスフェルリンの欠損により骨格筋の細胞膜修復機能が障害される成人発症の筋ジストロフィーで国の指定難病です。
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の中村尚子非常勤講師、青木正志教授、臨床障害学分野の鈴木直輝准教授、病態液性制御学分野の菅野新一郎学術研究員(研究当時:同大学加齢医学研究所)、国際医療福祉大学成田キャンパス基礎医学研究センターの三宅克也教授らの研究グループは、ジスフェルリンに結合し細胞膜修復を促進する分子として新たにCK2αを同定し、CK2αの過剰発現によりジスフェルリン欠損マウス骨格筋の細胞膜修復が改善することを確認しました。さらにCK2αは細胞膜修復に関わるannexin A1のリン酸化に関係していることも示されました。今後は、ジスフェルリン異常症をはじめとした筋ジストロフィーの新たな治療標的となる可能性が期待されます。
本研究成果は2026年3月13日にThe FASEB journal誌にオンラインで掲載されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
ジスフェルリン異常症はジスフェルリン遺伝子の病的バリアントにより筋細胞膜タンパク質ジスフェルリンが欠損することで引き起こされる遺伝性の成人発症の筋ジストロフィーの総称です。有効な治療法はなく、国の指定難病になっています。
ジスフェルリンは細胞膜修復に関わっており、この機能は「壊れて、治す」を繰り返している骨格筋にとって、筋幹細胞による筋再生とともに重要なものですが、その仕組みはまだ十分に解明されていません。
本研究ではジスフェルリン異常症の原因となる変異が多い領域に注目し、新たなジスフェルリン結合タンパク質を同定し、そのタンパク質と細胞膜修復機能との関係を解明することを目的として行いました。
研究の内容
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の中村尚子(なかむら なおこ)非常勤講師、青木正志(あおき まさし)教授、臨床障害学分野の鈴木直輝(すずき なおき)准教授、病態液性制御学分野の菅野新一郎(かんの しんいちろう)学術研究員(研究当時:同大学加齢医学研究所)、国際医療福祉大学成田キャンパス基礎医学研究センターの三宅克也(みやけ かつや)教授らの研究グループは、質量分析5によりジスフェルリンに結合するタンパク質を解析し、その中のCK2αに注目しました。実際にレーザーにより骨格筋細胞膜に小さな損傷を起こすと損傷部位にCK2αが集まることが確認できました。また、CK2α欠損筋細胞では同様のレーザー膜損傷実験で細胞膜修復機能が障害されていました。さらにCK2αを過剰に発現させたジスフェルリン欠損マウスの筋線維でレーザー膜損傷実験を行うと、細胞膜修復機能が改善しました(図1)。これらの結果からCK2αが細胞膜修復機能を促進することが明らかになりました。
最後にリン酸化プロテオミクス解析6によりCK2αが細胞膜修復機能に関わることが報告されているannexin A1のリン酸化に関与している可能性が示されました。
本研究結果より、細胞膜損傷が生じた際にジスフェルリンと共にCK2αとannexin A1が損傷部位に動員され、CK2αによるannexin A1のリン酸化を介して、細胞膜修復が起こると考えられました。
今後の展開
筋ジストロフィーでは一般に筋肉が再生されにくいという特徴があり、今回見出されたジスフェルリン-CK2α-リン酸化annexin A1による細胞膜修復機能はジスフェルリン異常症のみならず多くの筋ジストロフィーで重要な役割を担っていることが予想されます。そのため、今後はこれらの疾患の病態を改善する治療標的となる可能性が期待されます。


謝辞
本研究は科研費基礎研究(C)(JP21K07411)、挑戦的研究(萌芽)(JP23K18260)、基礎研究(B)(JP20K07897)、若手研究 (JP20K16593, JP24K18695)、厚生労働科学研究費補助金 (JP20FC1036 and JP23FC1014)および精神・神経疾患研究開発費(grant/award number: 2-5, 5-6)による助成を得て遂行しました。また、本論文は東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業の支援を受け、オープンアクセスとなっています。
用語説明
- ジスフェルリン:筋細胞膜に存在する巨大なタンパク質。 ↩︎
- 筋ジストロフィー:遺伝子の異常により筋肉が壊れやすく、再生されにくくなる病気の総称。 ↩︎
- CK2:多くのタンパク質のリン酸化に関与するキナーゼで全身の細胞に存在する。αまたはα’ユニット2つとβユニット2つの四つで構成されている。 ↩︎
- annexin A1:annexinファミリーはCaイオンにより反応して細胞膜の主成分であるリン脂質に結合する。中でもA1はジスフェルリンと結合し骨格筋の細胞膜修復に関与することが報告されている。 ↩︎
- 質量分析:任意の条件で得られたタンパク質の断片を大きさ(質量)によって分類し、どのタンパク質かを解析する。 ↩︎
- リン酸化プロテオミクス解析:サンプルに含まれるリン酸化タンパク質を網羅的に解析する。 ↩︎
論文情報
タイトル:A novel dysferlin-binding kinase CK2α promotes plasma membrane repair in dysferlinopathy
著者:Naoko Nakamura(中村 尚子), Naoki Suzuki(鈴木 直輝)*, Shin-ichiro Kanno(菅野 新一郎)*, Rei Yamanaka(山中 玲), Hiroya Ono(小野 洋也), Rumiko Izumi(井泉 瑠美子), Rui Muliang(芮 沐良), Christian Borgo, Akiyuki Ohno(大野 尭之), Ryuhei Harada(原田 龍平), Saki Saito(齋藤 早紀), Yukino Funayama(船山 由希乃), Kensuke Ikeda(池田 謙輔), Shio Mitsuzawa(光澤 志緒), Yasuaki Watanabe(渡辺 靖章), Tomomi Shijo(四條 友望), Tetsuya Akiyama(秋山 徹也), Toshiaki Takahashi(髙橋 俊明), Makoto Kanzaki(神崎 展), Shion Osana(長名 シオン), Hitoshi Warita(割田 仁), Yoshitsugu Aoki(青木 吉嗣), Satoru Ebihara(海老原 覚), Mauro Salvi, Ryoichi Nagatomi(永富 良一), Akira Yasui(安井明), Katsuya Miyake(三宅 克也)*, Masashi Aoki(青木 正志)*
*責任著者:東北大学⼤学院医学系研究科神経内科学分野 教授 青木正志
東北大学大学院医学系研究科臨床障害学分野 准教授 鈴木直輝
東北大学大学院医学系研究科病態液性制御学分野 学術研究員 菅野新一郎(研究当時:同大学加齢医学研究所)
国際医療福祉大学成田キャンパス基礎医学研究センター 教授 三宅克也
掲載誌:The FASEB journal
DOI:10.1096/fj.202500773RRR
URL: https://doi.org/10.1096/fj.202500773RRR
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野
教授 青木 正志(あおき まさし)
TEL: 022-717-7189
Email:masashi.aoki.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院医学系研究科臨床障害学分野
准教授 鈴木 直輝(すずき なおき)
Email: naoki.suzuki.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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