TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

東北大学医療系メディア「ライフ」ニュースルーム

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

TOHOKU MEDICINE LIFE NEWSROOM

「食」の変化が認知症のサイン? -前頭側頭型認知症の行動障害型だけでなく言語障害型でも高頻度に出現-

発表のポイント
  • 前頭側頭型認知症1の症状における食行動変化2は、従来知られていた「行動障害型前頭側頭型認知症(以下、行動障害型)」3だけではなく、言語障害型である「進行性非流暢性失語」4「意味性認知症」5でも高頻度で出現することを明らかにしました。
  • 前頭側頭型認知症のいずれの病型でも、発症からおおむね5年以内に半数以上の症例で食行動変化が生じることが判明しました。
  • 食行動変化のうち過食タイプは「行動障害型」で出現しやすいことも分かりました。こうした傾向を把握することで、より円滑な診断補助や介護者支援に繋がることが期待されます。
概要

前頭側頭型認知症では、過食やこだわりなどの「食行動変化」が出現することがあり、これまで「行動障害型」の特徴とされてきました。一方で、言語障害型における行動面の変化については十分な検討がなされておらず、発症初期から出現するかどうかは明らかではありませんでした。
今回、東北大学医学部医学科の佐藤優樹学部生、林瞳美学部生と東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野の柿沼一雄助教らは、東北大学病院高次脳機能障害科のデータベースから、前頭側頭型認知症58例の食行動変化を分析しました。その結果、食行動変化は「行動障害型」だけでなく「言語障害型」でも高頻度で出現する症状であり、いずれの病型でも発症からおおむね5年以内に半数以上の症例で食行動変化が生じることが分かりました。また、過食傾向は行動障害型で多いことも分かりました。この知見は診断や介護者支援に役立つ可能性があります。本研究成果は2026年3月30日にJournal of Neuropsychologyに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯
認知症の一種である「前頭側頭型認知症」では、前頭葉や側頭葉で脳萎縮と機能低下が進行していきます。この疾患は主体となる症状によってさらに3病型に分類されます。行動や情動の異常が目立つ病型として「行動障害型」があり、言語障害が目立つ病型としては、発話と文法の障害が中心となる「進行性非流暢性失語」と、語彙と理解の障害が中心となる「意味性認知症」の2病型があります。言語障害型は近年では「原発性進行性失語」6という症候群でも呼ばれます。
これまで、食べ過ぎや食のこだわりといった「食行動変化」は、主に行動障害型の特徴として知られてきました。しかし、言語障害が目立つ2病型の行動面の変化を調べた研究は少なく、こうした症状が初期から見られるのかどうかは、明確なデータがありませんでした。

研究の内容
東北大学医学部医学科の佐藤優樹(さとう ゆうき)学部生、林瞳美(はやし ひとみ)学部生と東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野の柿沼一雄(かきぬま かずお)助教らが、過去に東北大学病院高次脳機能障害科で診断がついた症例のデータベースから、前頭側頭型認知症58例の食行動変化を分析しました(図1)。その結果、行動障害型前頭側頭型認知症は14例、進行性非流暢性失語は30例、意味性認知症は14例でした。
食行動変化は行動障害型で85.7%、言語障害型の2病型である進行性非流暢性失語で63.3%、意味性認知症で57.1% と、いずれの病型でも非常に頻度の高い症候であることが分かりました。時系列の分析では、全ての病型で発症から2~3年の時期に食行動変化が出現し、5年以内には約半数の患者に認められるようになることが分かりました。内訳の分析では、食欲の減少や嗜好性の変化には病型ごとの差が見られなかった一方で、過食の傾向は行動障害型で特に多いことが分かりました。

今後の展開
前頭側頭型認知症における食行動変化は、従来から注目されていた行動障害型だけでなく、言語障害型でも出現しやすいことが明らかになりました。食行動変化は、患者の生活習慣病の悪化などにも繋がりうるため、ときには医学的管理の上で重要な課題となります。今後こうした患者の臨床では、病初期の段階から食行動変化についてスクリーニングすることで、より円滑な診断補助や介護者への助言などの支援に繋がることが期待されます。

図1. 前頭側頭型認知症の食行動変化
前頭側頭型認知症の3つの病型である「行動障害型前頭側頭型認知症」「進行性非流暢性失語」「意味性認知症」で食行動変化の出現率を比較した。食行動変化はいずれの病型でも過半数で認められた一方で、過食系の変化は行動障害型で特に高い率を呈した。いずれの病型でも、初発症状からおおむね5年で半数以上の症例が食行動変化を呈することが分かった。
謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP25K16474、JP25K20836、JP24K14371、JP20H05956、JP23K21847)の助成を受けて行われました。

用語説明
  1. 前頭側頭型認知症:大脳皮質の前頭葉および側頭葉を主体に萎縮と機能低下が進行する脳疾患。行動や情動の変化を主体とする「行動障害型前頭側頭型認知症」と、言語の障害が生じる「進行性非流暢性失語」「意味性認知症」の3つに分類される。 ↩︎
  2. 食行動変化:食事の内容や行動習慣に現れる変化のこと。食欲が増加あるいは低下したり、特定の食べ物を過剰に好むようになったり、食事の時間や食べる順序にこだわりが見られる、といったものが含まれる。 ↩︎
  3. 行動障害型前頭側頭型認知症:社会性の異常や人格的変化のほか、異常行動や食行動変化が目立ってくるタイプ。言語的な異常は比較的軽度なことが多い。 ↩︎
  4. 進行性非流暢性失語:発話がたどたどしくなる、文法的に単純化した文が多くなるなど、「しゃべる」機能の障害が主体となる病型。前頭側頭型認知症の中でも左前頭葉の障害が主体の群と考えられている。 ↩︎
  5. 意味性認知症:物の名前が出にくくなる、言葉や物の意味が分からなくなるなど、「意味」の障害が主体となる病型。左側頭葉の障害が主体の群と考えられている。 ↩︎
  6. 原発性進行性失語:神経変性疾患(異常タンパクの蓄積を伴いながら神経細胞が徐々に脱落していく疾患の総称)の中でも、失語症が初発症状かつ中心的な症状であるような一群を指す。近年では、原発性進行性失語が様々な認知症疾患と共通した病態機序を持つことも判明している。 ↩︎
論文情報

タイトル:Eating Behaviour Profiles Across the Frontotemporal Dementia Spectrum
著者:Yuki Sato, Hitomi Hayashi, Kazuo Kakinuma*, Chifumi Iseki, Shoko Ota, Kazuto Katsuse, Shiho Matsubara, Nobuko Kawakami, Shigenori Kanno, Keisuke Morihara, Yoshiyuki Nishio, Kyoko Suzuki
佐藤 優樹、林 瞳美、柿沼 一雄*、伊関 千書、太田 祥子、勝瀬 一登、松原 史歩、川上 暢子、菅野 重範、森原啓介、西尾 慶之、鈴木 匡子
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 高次機能障害学分野 助教 柿沼 一雄
掲載誌:Journal of Neuropsychology
DOI:http://doi.org/10.1111/jnp.70045
URL:https://bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jnp.70045

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 高次機能障害学分野
助教 柿沼 一雄(かきぬま かずお)
TEL: 022-717-7358
Email: kazuo.kakinuma.c1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

関連資料
プレスリリース資料(PDF)
関連リンク
高次機能障害学分野 リハビリテーション部