X線透視ガイド下で手技を行う医療従事者用の衝立型放射線防護具を開発 ―医療従事者の放射線白内障発生リスク低減へ―
2026.5.19 Tue
研究発表のポイント
- X線透視ガイド下で手技を行う医療従事者向けに、Cアーム式装置にも設置可能で簡便な衝立型放射線防護具1(以下、本防護具)を開発しました。
- 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)手技2を再現した実験により、術者の眼位置における散乱線3を約90%、麻酔科医の眼位置で約86%遮蔽できることを確認しました。
- 本防護具の使用により、X線透視ガイド下手技従事者の放射線白内障4の発生リスク低減に寄与するとともに、医療従事者の安全性の向上が期待されます。
概要
X線透視ガイド下で手技を行う医療従事者は、散乱線による眼の被ばくを受けるため、放射線白内障などの障害が発生するリスクがあります。近年、そのリスクは従来考えられていたよりも高いことが明らかになっており、X線透視ガイド下手技従事者の水晶体被ばく線量を低減することが課題です。
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の石井浩生助教、稲葉洋平講師、千田浩一教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、X線透視ガイド下手技従事者用の、簡便な衝立型放射線防護具の開発に成功しました。本防護具は、近年普及が進むCアーム式装置の防護でも使用できるように患者テーブルに設置する衝立型の防護具です。主にERCPでの使用を想定しており、術者と麻酔科医用の2種類を開発しました(図)。人体模型を用いた実験にて遮蔽能力を評価したところ、術者位置での遮蔽率は90%以上、麻酔科医位置での遮蔽率は86%であり、含鉛防護眼鏡5よりも高い遮蔽効果が期待できることが分かりました。本防護具の使用により、X線透視ガイド下手技従事者の放射線白内障の発生リスク低減に寄与するとともに、医療従事者の安全性の向上が期待されます。
本研究成果は、Journal of Radiation Research (Oxford Academic)の電子版に2026年5月6日に公開されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
X線透視ガイド下で患者近傍の手技を行う医療従事者は、患者などから発生する散乱線により眼に被ばくを受け、放射線白内障などの障害が発生するリスクがあります。さらに近年の知見から、放射線白内障は従来考えられていたよりも低い線量で発症することが明らかになっています。2011年に、国際放射線防護委員会(ICRP)は、眼の水晶体の等価線量限度を従来の150mSv/年から20mSv/年(100mSv/5年)へと大幅に引き下げる声明を発表し、翌2012年にはICRP勧告を発出しました。日本では2021年にICRP勧告を取り入れた新法令が施行されましたが、実際に線量超過例が報告されるなど、X線透視ガイド下での手技に携わる医療従事者の水晶体被ばく線量を低減することが大きな課題となっています。
水晶体用の放射線防護具として含鉛防護眼鏡が用いられていますが、その遮蔽率は50〜60%に留まり、十分とは言えません。さらに、含鉛防護眼鏡は手技中に曇りやすい、長時間の着用に支障を来す重量である等の欠点があり、新しい防護具の開発が期待されていました。
また、X線管が患者上部にあるオーバーテーブルX線管形装置に設置できるERCP用防護カーテンは市場にあるものの、近年普及しつつあるCアーム式装置には設置できないという課題がありました。
研究の内容
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の石井浩生(いしい ひろき)助教(東北大学病院クロスアポイントメント)、稲葉洋平(いなば ようへい)講師、千田浩一(ちだ こういち)教授(災害放射線医学分野)らの研究グループは、Cアーム式装置の患者テーブルに設置する衝立型放射線防護具の開発に成功しました。術者用(幅50cm×高さ50cm)と麻酔科医用(幅30cm×高さ40cm)の2種類を開発し、いずれも含鉛シート(鉛当量0.5 mm)を用いた新開発の衝立、既存のテーブル懸垂式アンダーカーテン、そしてこれらを取り付けるアクリル製L字型ベースの3点で構成されています。接合部はすべて面ファスナー(マジックテープ)となっているため高さ調整が容易であり、Cアームが傾斜した際の衝立の干渉防止や患者乗降時の取り外しにも対応しています(図)。
本防護具の遮蔽能力について、ERCP手技を再現した人体模型による実験にて確かめたところ、テーブル懸垂式アンダーカーテンのみでは術者の眼の高さ(床面から150cm)における散乱線をほとんど遮蔽できなかったのに対し、本防護具を設置することで遮蔽率が90%に向上することが示されました。これは、患者テーブルと受像器との間の空間を隙間なく塞ぐことが眼の防護において極めて重要であることを示しています。また、麻酔科医についても、着座時の眼の高さ(床面から100cm)において86%の遮蔽率が得られました。いずれの衝立も、オーバーテーブルX線管形装置のERCP用防護カーテン使用時と同レベルの散乱線量に抑えることができることが示されました。
今後の展開
本防護具は、Cアーム式装置だけでなく、オーバーテーブルX線管形装置にも応用可能なようにデザインされています。また、本防護具は低コストで簡便に製作できるため、今後の商品化、製品化が期待されます。X線透視ガイド下での手技に従事する医療者の放射線白内障の発生リスク低減への貢献が期待されます。

謝辞
本研究の一部は、厚生労働省労災疾病臨床研究事業費(240401-02、千田)の支援を受けて実施しました。
用語説明
- 放射線防護具:医療現場や産業現場においてX線やガンマ線等による放射線被ばくから身体を守るための装備。 ↩︎
- 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)手技:内視鏡を用いて胆管や膵管に造影剤を注入し、X線撮影する検査法。胆管や膵管の結石や狭窄に対する診断および治療を同時に行うことができる。 ↩︎
- 散乱線:X線やガンマ線等の放射線が物質(人体や撮影台)を通過する際、内部の電子と相互作用を起こして進行方向が乱反射した放射線。医療放射線では画像コントラストの低下や医療従事者被ばくの原因となる。 ↩︎
- 放射線白内障:眼の水晶体が放射線に曝されることで細胞が傷害され、水晶体が混濁すること。 ↩︎
- 含鉛防護眼鏡:眼の放射線防護を目的とした、レンズに鉛を含む素材が用いられた眼鏡あるいはゴーグル形状の防護具。 ↩︎
論文情報
タイトル:Fundamental evaluation of a novel upright shield to protect medical personnel from scattered radiation during endoscopic retrograde cholangiopancreatography using a C-arm system
著者: Hiroki Ishii, Koichi Chida*, Yohei Inaba, Shu Onodera, Shingo Kayano and Masahiro Sai
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野/災害放射線医学分野
教授 千田 浩一(ちだ こういち)
掲載誌:Journal of Radiation Research (Oxford Academic), 2026.
DOI:10.1093/jrr/rrag030
URL:https://doi.org/10.1093/jrr/rrag030
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野/災害放射線医学分野
教授 千田 浩一(ちだ こういち)
TEL: 022-717-7943
Email: koichi.chida.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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