痩せてもリセットされない皮膚の「肥満記憶」を世界で初めて解明―減量後も皮膚免疫細胞は肥満時の炎症リスクを保持―
2026.5.19 Tue
研究発表のポイント
- 肥満によって変化した皮膚の免疫細胞は、減量して代謝状態が改善した後も元の状態には戻らず、「肥満記憶」として保持されることを明らかにしました。
- 減量後のマウスに乾癬(かんせん)1を誘発させると、一見正常な皮膚であっても、肥満時と同等、あるいはそれ以上に症状が悪化することを確認しました。
- 脂肪組織で報告されている「肥満記憶2」が皮膚組織にも存在することを世界で初めて明らかにし、過去の肥満歴を考慮した新たな治療・予防法やスキンケア支援の必要性を示しました。
概要
近年の研究で、脂肪組織において減量後も免疫細胞に「肥満記憶」が残り、全身性の慢性炎症状態を持続させることが報告されています。しかし、最大の免疫臓器である皮膚にも肥満記憶が残るかは不明でした。
東北大学大学院医学系研究科の鎌田若奈大学院生(研究当時)、丹野寛大講師、菅野恵美教授らの研究グループは、マウスモデルを用いた研究で、肥満によって引き起こされた皮膚免疫細胞の変化は、減量後も持続することを明らかにしました。すなわち、皮膚の免疫細胞も過去の肥満を「記憶」し、減量後もその影響を保持していることが示されました。減量後の皮膚は一見正常に見えますが、ひとたび炎症の引き金(刺激)が加わると、肥満と同様、あるいは上回る症状を示すことがわかりました。本成果は、肥満経験者の皮膚疾患リスクに新たな指針を与えるものです。
本研究成果は2026年5月15日付でJournal of Immunology Researchに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
肥満は全身に慢性的な炎症を引き起こし、乾癬やアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患を悪化させることが知られています。これまで、減量(ダイエット)はこれらのリスクを軽減すると考えられてきました。 しかし、最新の科学的知見(Science 2023, Nature 2024等)では、脂肪組織のマクロファージ3が減量後も肥満時の状態を記憶し、炎症リスクが持続することが報告され、注目を集めています。本研究グループは、脂肪組織だけでなく、「皮膚」においても「肥満記憶」が刻まれる可能性について考え、その検証を行いました。
研究の内容
東北大学大学院医学系研究科の鎌田若奈(かまだ わかな)大学院生(研究当時)、丹野寛大(たんの ひろまさ)講師、菅野恵美(かんの えみ)教授らの研究グループは、マウスを「通常食群(Lean)」「高脂肪食群(Obese)」「高脂肪食後に普通食へ切り替え減量させた群(WL)」の3群に分け、皮膚免疫細胞の機能を解析しました。その結果、WL群では、減量によって体重や血糖値、コレステロール値は正常に戻りましたが、皮膚内の免疫細胞では、自己免疫疾患4に関わる遺伝子(IL-17A5やRORγt6)の発現が肥満マウス(Obese)と同様に高いまま維持されており、代謝は改善しても皮膚の免疫細胞は「肥満記憶」を保持することが明らかになりました。
また、皮膚に存在するγδ T細胞7などの構成を分析したところ、肥満により増加した真皮γδ T細胞細胞が減量後も正常なバランスに戻らず、炎症を起こしやすい状態となっており、特定の免疫細胞のバランス異常が確認されました(図1)。
さらに、乾癬モデルを用いた試験では、減量後のマウス(WL)は一見正常な皮膚であっても、刺激を加えると急激に状態が悪化し、PASIスコア8や皮膚バリア機能(TEWL9)において、肥満マウス(Obese)と同等、あるいはそれを上回る重症化を示すことが確認されました。
今後の展開
本研究成果は、「痩せれば皮膚の健康も元通りになる」という従来の認識に再考を促すものです。今後は、皮膚に刻まれた「肥満記憶」を司る分子メカニズムを詳細に解明することで、過去の肥満歴に左右されない、新しい治療法、スキンケア支援の開発につなげていくことが期待されます。

健康な皮膚(左:Lean)と比べ、肥満になった皮膚(中央:Obese)では、「炎症のスイッチ(CCL20、RORγt、IL-17A)」や真皮γδ T細胞が増加します。この増加は、減量後(右:WL)も、消えることなく皮膚に残り続けます。これが「肥満の記憶」であり、一度この記憶が刻まれると、次に刺激が加わったときに皮膚炎がひどく悪化してしまう原因となる可能性があります。

謝辞
本研究は、文部科学省科学研究費助成金(課題番号:JP24K22222)、東北大学若手研究者に係る共用設備利用支援制度の支援および東北大学附属図書館オープンアクセス推進のためのAPC支援事業の支援を受けて実施されました。
用語説明
- 乾癬:自己免疫疾患の一種、肥満により増悪する。 ↩︎
- 肥満記憶:減量により肥満が解消された後も、細胞が「肥満時の悪影響(炎症の記憶など)」を保持し続ける現象。主に脂肪組織で報告されている。 ↩︎
- マクロファージ:体内に侵入した異物を食べる細胞であり、炎症の合図を送る「司令塔」でもある免疫細胞。 ↩︎
- 自己免疫疾患:免疫システムが誤って自分の組織を攻撃してしまう疾患。 ↩︎
- IL-17A:自己免疫疾患(乾癬など)において中心的な役割を果たすサイトカイン。 ↩︎
- RORγt:IL-17を産生する免疫細胞(Th17細胞や真皮γδ T細胞など)に発現し、それらの細胞への分化を司る司令塔となる遺伝子。 ↩︎
- 真皮γδT細胞:皮膚に存在し、自己免疫疾患に重要なIL-17を産生する。 ↩︎
- PASIスコア:乾癬の重症度指標。 ↩︎
- TEWL:皮膚のバリア機能を測る指標であり、数値が高いほど皮膚バリアが破綻した状態であることを示す。 ↩︎
論文情報
タイトル:High Fat Diet–Induced Obesity Alters Cutaneous Immune Cell Function, and These Changes Persist after Weight Loss
著者:Wakana Kamada, Hiromasa Tanno*, Rena Takayashiki, Yuki Sato, Shinyo Ishi, Miki Shoji, Ko Sato, Tetsuji Aoyagi, Emi Kanno
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 看護技術開発学分野 講師 丹野 寛大(たんの ひろまさ)
掲載誌:Journal of Immunology Research
DOI:10.1155/jimr/3930910
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1155/jimr/3930910/
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
看護技術開発学分野
講師 丹野 寛大(たんの ひろまさ)
TEL: 022-717-7958
Email: hiromasa.tanno.d3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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