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補綴装置の使用が高齢者の生活機能低下リスクを抑制

発表のポイント
  • 歯が20本未満の高齢者22,632人を3年間追跡して、入れ歯・ブリッジ・インプラントといった補綴(ほてつ)装置を使用している場合と使用していない場合で生活機能との関連に違いがあるかを調べました。
  • 入れ歯などの補綴装置を使用している高齢者では、生活機能全体の低下リスクが9%低くなることが分かりました。
  • 生活機能の領域別では、「知的能動性」の低下リスクが13%低く、歯を失った後の補綴歯科治療が生活機能維持に寄与することが期待されます。
概要

これまで、歯を失った部分を義歯(入れ歯)等で補うことが健康維持に役立つ可能性が示唆されてきましたが、実際に補綴装置の使用により、「生活機能」の低下をどの程度抑制できるのか、その経年的な影響を評価した大規模研究は限られていました。
東北大学病院咬合修復科の中川茉莉医員、東北大学大学院歯学研究科の竹内研時教授らの研究グループは、65歳以上で歯が20本未満の地域在住高齢者22,632人を対象に、補綴装置の使用と、その後3年間の生活機能(functional capacity: FC)低下との関連を検討しました。その結果、補綴装置を使用している高齢者は、使用していない高齢者と比較して、生活機能の低下リスクが低いことが明らかとなりました。領域別では、特に「知的能動性」において、低下リスクが低くなる結果が得られました。本研究成果は、補綴歯科治療が単なる咀嚼機能の回復だけでなく、高齢者の自立した生活機能維持にも寄与する可能性を示すものです。
本研究成果は、2026年5月7日にFrontiers in Oral Healthに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
歯の喪失は、単に「噛めない」という問題にとどまらず、身体機能の低下や認知症のリスク上昇、社会参加の減少など、多岐に渡って負の影響を及ぼす可能性が近年指摘されています。これまで、歯を失った後に義歯(入れ歯)等で補うことが健康維持に役立つ可能性が示唆されてきましたが、実際に補綴装置の使用により、「生活機能」の低下をどの程度抑制できるのか、その経年的な影響を評価した大規模研究は限られていました。本研究では、歯を失った高齢者を対象に、義歯やブリッジ、インプラントなどの補綴装置の使用が3年後の生活機能の維持にどのように関わるかを検討しました。

今回の取り組み
東北大学病院咬合修復科の中川茉莉医員、東北大学大学院歯学研究科 歯学イノベーションリエゾンセンター データサイエンス部門の竹内研時教授らによる本研究は、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の2016年および2019年の調査データを用いた前向きコホート研究です。解析対象は、2016年時点で65歳以上の自立した高齢者のうち、残存歯数が20本未満の22,632名[平均年齢: 74.0歳、男性51.4%]としました。生活機能の評価には「老研式活動能力指標(TMIG-IC)1」を用い、合計スコアおよび3つの領域(手段的日常生活動作、知的能動性、社会的役割)別に評価しました。2016年時点での義歯、ブリッジ、インプラント使用の有無をもとに、TMIG-ICの合計スコアおよび3つの領域における2016年から2019年の間での低下(1点以上の減少)リスクについて解析しました。解析にあたっては、年齢、性別、社会経済状況、既往歴、残存歯数などの影響を統計学な手法で取り除いた上で、相対リスク比2を算出しました。
3年間の追跡期間中に、対象者の33.5%(7,573名)に生活機能の低下が認められました。解析の結果、補綴装置を使用している群では、使用していない群と比較して、生活機能の低下リスクが9%低いことが示されました[相対リスク比=0.91, 95% 信頼区間: 0.86–0.97]。また、領域別では「知的能動性」において有意な関連が認められ、補綴装置使用群では低下リスクが13%低い結果でした[相対リスク比=0.87, 95% 信頼区間: 0.80–0.96](図1)。補綴装置の種類別の解析では、取り外し式の入れ歯の使用においては生活機能[相対リスク比=0.90 95% 信頼区間: 0.85–0.96]と知的能動性[相対リスク比=0.87 95% 信頼区間: 0.79–0.95]で同様の傾向が確認されました。

今後の展開
補綴歯科治療が単なる口腔機能の回復のみならず、高齢者の「生活の自立」を長期間にわたって支える基盤であることを科学的に検証しました。歯を失った際に放置せず、適切な歯科治療を受けることが、健康長寿社会の実現に向けた有効な対策の一つである可能性があります。

図1. 補綴装置使用の有無による比較 (n = 22,632)
謝辞

本研究は、東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラムの支援を受けたものです。
本研究で使用した調査データは、日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費(JP20H00557, JP20K10540, JP21H03196, JP21K17302, JP22H00934, JP22H03299, JP22K04450, JP22K13558, JP22K17409, JP23H00449, JP23H03117)、厚生労働科学研究費補助金(19FA1012, 19FA2001, 21FA1012, 22FA2001, 22FA1010, 22FG2001)、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JPMJOP1831)、公益財団法人健康・体力づくり事業財団令和4年度健康運動指導研究助成、TMDU重点研究領域、国立研究開発法人防災科学技術研究所の助成を受けてJAGESプロジェクト(日本老年学的評価研究)によって実施・整備されたものです。

用語説明
  1. 老研式活動能力指標(TMIG-IC)
    高齢者の生活機能を評価する日本で広く使用されている指標。
    「手段的自立」「知的能動性」「社会的役割」の3領域から構成される。 ↩︎
  2. 相対リスク比
    1より小さい場合、リスク低下を意味する。 ↩︎
論文情報

タイトル:Dental prosthesis use and subsequent functional capacity decline among older adults: a three-year cohort study based on self-reported measures from the JAGES.
著者:Mari Nakagawa, Kenji Takeuchi*, Taro Kusama, Hazem Abbas, Katsunori Kondo, Hiroshi Egusa, Ken Osaka
*責任著者:東北大学大学院歯学研究科 歯学イノベーションリエゾンセンター データサイエンス部門 教授 竹内 研時
掲載誌:Frontiers in Oral Health
DOI:10.3389/froh.2026.1784871
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/froh.2026.1784871

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
歯学イノベーションリエゾンセンター
データサイエンス部門
教授 竹内 研時
TEL: 022-717-7639
Email: kenji.takeuchi.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科 広報室
TEL: 022-727-8260
Email: den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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