発表のポイント
- 1,643例のがん遺伝子パネル検査を解析し、国内有数の単施設リアルワールドデータ1として検査後の治療状況を検討しました。
- 株式会社日立ハイテクと共同開発してきた「エキスパートパネル2支援システム」が、がんゲノム医療の質向上と新規治療開発につながる診療基盤として貢献しました。
- がん遺伝子パネル検査で新たな治療が提案され、その治療を受けた患者では、治療を受けられなかった患者よりも生存期間が長く、検査が患者の治療に役立つ可能性が示されました。
概要
近年、がんの遺伝子を詳しく調べ、一人ひとりに合った治療を選ぶ「がんゲノム医療」が広く行われるようになってきました。しかし、検査後の推奨治療による予後改善の検証や診療へのフィードバックが課題でした。
東北大学病院個別化医療センターの猿舘知恵看護師、土橋美紀看護師、佐々木真亜子認定遺伝カウンセラー(3名の共同筆頭著者)と東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野の城田英和准教授らの研究グループは、2019年から2024年までに東北大学病院で実施した1,643例のがん遺伝子パネル検査を対象に、検査後の治療内容と患者予後を詳細に追跡しました。また、株式会社日立ハイテクと共同開発した患者情報の追跡を可能にする「エキスパートパネル支援システム」を活用して、解析を行いました。
その結果、14.6%の患者に新たな治療が提案され、そのうち118例(7.2%)が実際に推奨治療を受けました。さらにその治療を受けた患者では遺伝子パネル検査を受けた後の生存期間中央値が有意に延長し、がん遺伝子パネル検査が患者の治療機会を拡大し、予後改善につながる可能性が示されました。
本論文は、7月7日に国際学術誌Scientific Reportsに掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
近年、がん治療はがんが発生した臓器だけでなくがん細胞に生じたがんの遺伝子を調べ、その患者さんに合った薬を選ぶ「がんゲノム医療」へ大きく進歩しています。日本では2019年からがん遺伝子パネル検査が保険診療として導入され、現在では厚生労働省が指定する全国のがんゲノム医療病院で広く実施されています。検査結果は、医師や病理医、遺伝カウンセラーなどが集まって治療方針を検討する「エキスパートパネル」で検討され、分子標的薬や治験などの治療選択肢が提案されます。しかし、実際に推奨された治療を患者に実施し、その結果として予後改善につながったかについては十分な検証が行われていませんでした。また、患者の経過を長期間追跡し、診療へフィードバックできるシステムも十分整備されていないことが課題となっていました。
今回の取り組み
本研究では、東北大学病院個別化医療センターの猿舘知恵看護師、土橋美紀看護師、佐々木真亜子認定遺伝カウンセラー(3名の共同筆頭著者)と東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野の城田英和准教授らの研究グループが、東北大学病院において2019年9月から2024年6月までに実施された1,643例のがん遺伝子パネル検査を対象に解析を行いました。研究グループは、エキスパートパネルの運営、患者管理、予後追跡を一元的に管理できる独自の「エキスパートパネル支援システム」(図1)を日立ハイテクと共同開発し、このシステムを活用して包括的な解析を実施しました。
解析の結果、約67%の患者で治療標的となる遺伝子変異が検出されました。そして、14.6%の患者で新たな治療が推奨され、約7.2%の患者が実際に推奨治療を受けました。推奨治療を受けた患者では、遺伝子パネル検査を受けた後の生存期間中央値が21.0か月であり、推奨治療を受けられなかった患者(12.9か月)や治療提案がなかった患者(13.5か月)と比較して有意に良好な予後を示しました(図2)。また、推奨治療を受けた患者の約6割では100日以上治療が継続されており、多くの患者が臨床的な利益を得ていることが示されました。さらに、甲状腺がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、胆道がんでは比較的高率に新たな治療へ結び付くことも明らかになり、これらのがん腫の患者には検査を積極的に行うことが推奨されます。
今後の展開
本研究は、日本最大級のリアルワールドデータを用いて、がん遺伝子パネル検査が実臨床において患者の治療選択肢を広げ、予後改善につながる可能性を示した重要な成果です。さらに、エキスパートパネル支援システムにより、患者情報を継続的に管理し、新薬承認や新たなエビデンス、臨床試験情報を過去の患者にも迅速に還元できる体制が整いました。今後は東北地方の医療機関との連携をさらに強化し、リアルワールドデータの共有を進めることで、がんゲノム医療の均てん化3と質の向上が期待されます。今後も東北大学病院はがんゲノム医療中核拠点病院として東北地方のがん患者一人ひとりに最適な治療をより早く届けることを目指していきます。
また、東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野の城田英和准教授らの研究グループは、株式会社日立製作所、株式会社日立ハイテクと共同でAIを活用した遺伝子パネル検査レポートの作成や治験候補・最適治療の提案システムの開発にも取り組んでおり、今後はAIを活用した次世代の診療支援システムへの発展も期待されます(https://rd.hitachi.co.jp/_ct/17828400)。

患者情報、遺伝子変異、治療提案を一元管理し、多職種で共有する診療支援システム。

推奨治療を受けた患者では、生存期間中央値が21.0か月となり、他の群と比較して有意な延長を認めた。
用語説明
- リアルワールドデータ:日常の医療現場から得られる実臨床データのこと ↩︎
- エキスパートパネル:がんゲノムプロファイリング検査の結果を多角的に分析し、その患者さんに最適な治療法(分子標的薬など)を検討する専門家集団の会議のこと ↩︎
- 全国どこでも標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること ↩︎
論文情報
タイトル:Clinical Utility of Comprehensive Genomic Profiling Tests Using MTB Management System at a Single Center in Japan
著者:猿舘知恵、土橋美紀、佐々木真亜子、城田英和*、岩崎智行、多田寛、島田宗昭、川守田直樹、金森政之、宮内栄作、新妻秀剛、笠原佑記、大内康太、今井源、西條憲、小峰啓吾、高橋雅信、古川徹、横田彩、金森英司、川上尚人、石岡千加史
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野 准教授 城田英和
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-026-61124-2
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-026-61124-2
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
臨床腫瘍学分野
准教授 城田 英和(しろた ひでかず)
TEL: 022-717-8543
Email: hidekazu.shirota.e1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学高等研究機構未来型医療創成センター
企画推進室 広報担当
教授 長神 風二(ながみ ふうじ)
TEL: 022-274-2371
Email: ingem-jimu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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