
わたしの眠りかた・馬場正尊さんの場合
建築家
2025.3.27 Thu
いい仕事をしている人は、いい眠りをしているのではないか。
そんな仮説をもとにさまざまな領域で注目すべき仕事をされているかたたちに「じぶんの眠り」について語っていただくインタビューシリーズ。それが「わたしの眠りかた」。
今回ご登場いただくのは、馬場正尊さん。日本のリノベーションブームを牽引した先駆け的存在と言われる建築家であり、都市観察と不動産を融合したWebメディア『東京R不動産』のディレクターであり、多数の書物を世に出してきた執筆者であり、また編集者でありインタビュアーであり、さらには東北芸術工科大学教授であり、設計したホテルの経営までもやり……という、「建築家」というたったひとつの肩書ではまるで収まりきらない越境的な仕事ぶりを発揮されています。
全国そして世界の各地を飛び回り、つねにトラベリング・ライフの渦中にいるという馬場さんは、その超多忙なスケジュールのなかでどのような眠りをされているのでしょうか。「今日はこれから大阪に行ってきます」と語る、やっぱり移動中の馬場さんに、山形空港の出発ロビーでお話を伺いました。
馬場正尊 Baba Masataka
オープン・エー代表取締役/建築家 /東北芸術工科大学教授
1968年佐賀県生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2003年OpenAを設立。建築設計、都市計画、執筆などを行い、同時期に「東京R不動産」を始める。2008年より東北芸術工科大学准教授、2016年より同大学教授。2015年より公共空間のマッチング事業『公共R不動産』立ち上げ。2017年より沼津市都市公園内の宿泊施設『INN THE PARK』を運営。
近作は「Slit Park YURAKUCHO」(2022)「iti SETOUCHI」(2022)など。近著に『テンポラリーアーキテクチャー:仮設建築と社会実験』(学芸出版社、2020、共著)、『あしたの風景を探しに』(どく社、2024)『パークナイズ:公園化する都市』(学芸出版社、2024、共著)がある。
https://www.open-a.co.jp/
全国各地のクライアントや自治体からの要請を受けていつもどこかの都市に向かって移動されていると伺いました。落ち着くひまもなさそうなそういう慌ただしい日々のなかで、しっかりとした睡眠をとるために工夫されていることなどありますか。
馬場
昔から寝つきは良いほうで、目を閉じて「1、2、3」と数えたら自然ともう眠りに落ちてしまう、という感じです。ですから、とくに眠るために苦労したり工夫を懲らしたりということはほとんどしてこなかったように思います。昨晩は山形市内のビジネスホテルに宿泊しましたが、6時間ぐっすりと寝ました。たぶん夜中に1回も目を覚まさなかったんじゃないかな。朝起きたときに「あぁ、よく寝られたな」と思いました。
そんなぼくでも、心配ごとが心に重くのしかかってきたりすると夜眠れなくなってしまう、ということはあります。最近も、大きなふたつの案件がほぼ同時に暗礁に乗り上げてしまいそうな場面があって、「え、ヤバい、どうしよう」という危機感を感じたのですが、そのときは不安に苛まれてか、まったく眠れなくなりましたね。でも、その問題がなんとか解決してくれて、プロジェクトがまたスムーズに動き出したら、今度はぐっすり眠れるようになるという……、そんな感じです。
眠りについて実はひとつ困っていることがあります。睡眠時無呼吸症候群の症状に悩まされている、ということです。寝ているときに呼吸が止まってしまい、苦しくてハァハァハァ言って目を覚ます。そういうことが毎日ではないけどときどき起きる。つらいです。

病院で無呼吸症候群と診断されて治療を受けている、という状況ですか。
馬場
8年ほど前に東京にある専門の病院で診察を受け、睡眠時無呼吸症候群と診断されました。そのとき検査のため病院に一泊することになったのですが、そのときの経験と思い出が良いものではありませんでした。ぼくの場合、息を「吐く」ときに呼吸が止まるらしいのですが、どうも睡眠時無呼吸症候群というのは息を「吸う」ときに呼吸が止まる人が多いそうなんです。だからなのか、その病院には「吸う」のが困難になる人向けの器具しか用意がなく、「ぼくにその器具は違うと思う」と言ったにもかかわらず聞き入れられず、それを装着されて眠ることになりまして。そしたら、まあ案の定と言いますか、夜中にとんでもなくひどい思いをすることになったのです。それがきっかけで「もう、ここ、無理」と思い、病院通いをやめた、という経緯があります。
そのときに「こうなったらこれからは自分で工夫するしかない」と思いまして。呼吸が止まるのは喉の皮膚が邪魔しているのだろうから、痩せるといいんじゃないかと考え、実際に体を絞ってみたら症状が和らいだとか。枕の高さをちょっとずつ変えて試したりとか。でも、枕を高くしすぎて首を痛めたりとか。横を向いて寝るようにしたら少しラクになったとか……。そういう感じで、自分なりに考えて、トライアルしては症状が緩和したり、やっぱり呼吸が止まってつらい思いをしてガバッと起きたりしながら、騙し騙し、睡眠時無呼吸症候群と付き合っている感じです。
自分で工夫する、というのにも限界がありそうですね。
馬場
ある意味、体も建築と同じだろうと自分で勝手に思っているフシがあるようです。なにか問題となる症状が出たら、それはどういうことなのか、原因と結果を結びつけるメカニズムはどうなっているのか、その道筋を考えて対策を練る、みたいなことを自然とやっているんです。例えば、建物の地下室にカビが発生したという相談があれば、「梅雨時に外の空気をここから吸い込んだけど、吸い込んだ空気の量と吐き出す空気の量のバランスが悪いからこうなったに違いないから、ここに換気扇を置いてみると…」と考えて対策してみるとほら解決した、みたいなこと。そういうのをいつもやっているので、同じように、「その症状が出ているということは、こういうことなんじゃないか」と自分の体のメカニズムを読み解いて色々なことを試している、という感覚です。
そういう目で長く自分を見てきた結果、睡眠時無呼吸症候群のほかにもさまざまにあらわれる諸症状の根っこにあるぼくの体のいちばんの問題点は「血流が悪い」ということで間違いないだろう、と思っています。なので、移動の合間にもこまめに自分で自分の体をマッサージしたり、スペースを見つけてはストレッチしたり、というのはよくやっていますね。自宅にいるときは、パッと思いついたように外に飛び出して走ったりするなんてことも。そうやって「なんとか血流を良くしよう」と一生懸命もがいているという感じです。でも、そんなぼくの姿を横目で見ている妻からは「思いつきでバカみたいに走ること自体が体を悪くしているんじゃないの」とか「そもそもあなたは呼吸が浅い」とか言われていまして、何も言い返すことができなかったりもしています。一体どちらが正しいのか、どちらも間違っているのか、本当のことはなにもわかっていませんね。

TEXT, PHOTO/ 空豆みきお