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〔いのち)の可能性をみつめる

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「涙をめぐる10の質問」に答えてくださった眼科の永澤拓也先生。東北大学病院 眼科検査室にて

眼科医がお答えします「涙をめぐる10の質問」(前編)

永澤拓也(東北大学病院 眼科 医員)

私たちの身体において、水は血となり、汗となり、尿となるなど、その姿をさまざまに変えます。目からこぼれる「涙」も、そんな水のかたちのひとつです。ドラマを見て感動したとき、つらい体験をしたとき、タマネギを刻んだとき、眠くなってあくびが出たとき。日常のなかで、ふいに目からこぼれ落ちるあの水は、とても身近でありながら、自分の意志ではどうにもできない不思議な存在です。
改めて考えてみると、涙について私たちは意外と知らないことが多いのかもしれません。
そこで今回は、目の専門家であり、多くの患者さんの診療にあたる永澤拓也先生に、「涙」についての質問を投げかけてみました。

Q1:涙はどんな成分でできていますか。個人差はありますか。

永澤

涙の90%以上は水です。その他の成分には、ナトリウムなどの電解質ミネラルがあります。また、免疫を担う免疫グロブリンや、ムチンと呼ばれる重要なタンパク質も含まれています。ムチンは、目の表面を覆う角膜や結膜の細胞から分泌され、水分を保持して蒸発を防ぐ役割を果たしています。
涙は3つの層から成っており、最も外側は「油層」と呼ばれる脂質の層。水分の蒸発を防いでいます。その内側が「水層」で、水分とともに電解質やタンパク質が含まれます。一番内側にあるのが「ムチン層」で、水分を角膜表面にとどめる働きをしています。ただ、ムチンは水層にも広く分布されていることが分かったので、水層とムチン層を1つの層とする考えが主流になってきています。
どんな人の涙も基本構造は同じですが、タンパク質や水分の量には個人差があります。特に女性では、ホルモンの影響などでドライアイになりやすい傾向があるといわれています。また、服用している薬によっても涙の量が減る場合があり、その意味でも個人差が見られます。

Q2:涙にはどんな役割がありますか。

永澤

外の刺激から目を守る役割があります。まばたきのときの摩擦を抑えたり、角膜に酸素や栄養を届けたりする働きもあります。
角膜は目のなかの透明な部分で、透明であるということは血管がないということ。ふつうは血管を通して酸素が供給されますが、角膜ではそれができません。その代わりに、涙に溶けている酸素や栄養分が角膜の細胞に届く仕組みになっています。
また、もし角膜の表面が傷ついてでこぼこになると、光の屈折が乱れて視力が低下してしまいますから、その表面をなめらかに保ち、光の通り道を安定させることで、クリアな視界を維持する、というのも大切な役割となっています。涙はたんに「泣くためのもの」ではなく、目の健康を守るためにさまざまな役割を担っています。

Q3:悲しい、嬉しい、といった感情によって涙が出ることがありますが、涙のスイッチは感情と繋がっているのですか。また、笑いすぎても涙が出るし、めちゃくちゃ怒っても涙が出るのは、どういうことですか。

永澤

人間の感情をつかさどる「大脳辺縁系」と呼ばれる部分は、涙を分泌する涙腺と神経でつながっています。感動したり悲しんだりすると、その刺激が自律神経を通じて涙腺に伝わり、涙が出ると考えられています。
また興味深いことに、感動して流す涙と悲しんで流す涙とでは、含まれる成分が少し異なるという研究もあるそうです。
一方で、笑いすぎて涙が出る場合もあります。これは、笑うときに収縮する目の周りの筋肉が「涙道(るいどう)」と呼ばれる涙の排出口を一時的にふさいでしまい、行き場を失った涙が外にあふれ出るためだと考えられています。

Q4:感情で出る涙と、目にゴミが入った時に出る涙は、同じ涙ですか。

永澤

感情によって出る涙は、大脳辺縁系を介して自律神経が刺激され、涙腺から分泌されます。一方で、目にゴミが入ったときなどの涙は、刺激から目を守るための「反射性の涙」と呼ばれ、防御反応によって出るものです。成分もわずかに異なるという報告があります。

Q5:「涙も枯れちゃった」という言葉がありますが、実際に涙は枯れることがありますか。

永澤

涙は、体内の血液中の水分からつくられています。ですから、健康な人であれば、どれだけ泣いても「涙が枯れる」ことはありません。
ただし、「枯れる」ことはなくても、涙の「量が減る」ことはあります。たとえば、自己免疫の異常によって涙腺の働きが低下する「シェーグレン症候群」という病気があります。ドライアイの症状で受診した際に行なう検査によって、その病気が見つかることもあります。
そのほか、年齢を重ねることで涙腺が小さくなったり、服用している薬の影響で涙の分泌が減ったりすることもあります。こうした理由から、実際に「涙の出にくい状態」になる人は少なくありません。

▶後編につづく

Text:空豆みきお(akaoni)
Photo:三浦晴子

永澤 拓也(ながさわ たくや)

青森県出身。2020年に東北大学医学部医学科卒業。初期研修を経て2022年より眼科医として勤務。2024年より東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科学分野博士課程に入学。

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