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「涙をめぐる10の質問」に答えてくださった眼科の永澤拓也先生。東北大学病院 眼科待合にて

眼科医がお答えします「涙をめぐる10の質問」(後編)

永澤拓也(東北大学病院 眼科 医員)

私たちの身体において、水は血となり、汗となり、尿となるなど、その姿をさまざまに変えます。目からこぼれる「涙」も、そんな水のかたちのひとつです。ドラマを見て感動したとき、つらい体験をしたとき、タマネギを刻んだとき、眠くなってあくびが出たとき。日常のなかで、ふいに目からこぼれ落ちるあの水は、とても身近でありながら、自分の意思ではどうにもできない不思議な存在です。
改めて考えてみると、涙について私たちは意外と知らないことが多いのかもしれません。
そこで今回は、目の専門家であり、多くの患者さんの診療にあたる永澤拓也先生に、「涙」についての質問を投げかけてみました。

▶前編はこちら

Q6:眠くてあくびすると涙も出るのはなぜですか。

永澤

リラックスして眠くなるときは、副交感神経が優位になります。副交感神経が働くと涙腺が刺激され、涙の分泌が促されます。
また、あくびをすると目のまわりの筋肉が収縮し、涙の排出口である涙道(るいどう)が一時的に圧迫されます。そのため、行き場を失った涙が外にあふれやすくなります。

Q7:涙と鼻水が同時に出て顔がぐしゃぐしゃになる時がありますが、あれはどういうことですか。

永澤

目と鼻は、涙点(るいてん)から鼻へとつづく「涙道(るいどう)」によってつながっています。涙は、目頭にあるその涙点から鼻のなかへと排出されていきます。また、涙腺と同じように、鼻水を出す鼻腺も副交感神経の働きによって刺激されます。そのため、涙が出ているときは鼻水も出やすく、両方の分泌が一度に起こることで、顔全体が涙と鼻水でいっぱいになってしまうのです。

Q8:歳をとると涙もろくなる、とか、涙腺がゆるくなる、というのは本当ですか。

永澤

一般的に、歳を重ねると「涙もろくなる」あるいは「涙が出やすくなる」と言われますが、その理由はいくつかあります。
まず心理的なことで言いますと、人生経験を重ねることで共感するちからが豊かになり、感情が動きやすくなる、ということが挙げられます。また、感情の涙は大脳辺縁系を介して自律神経が刺激され、涙腺から分泌されますが、この感情の抑制を担う前頭葉の働きは、加齢とともに少しずつ弱まるといわれています。そのため、感情がより深く響きやすくなり、涙も出やすくなるのです。

一方で、生理的な理由もあります。年齢を重ねると、涙の通り道である涙道が細くなったり詰まったりすることがあり、涙が鼻へうまく流れずに目にあふれてしまうことがあります。実際、「涙が止まらない」といって眼科を受診される方の中には、こうした涙道の狭窄が原因の方もいます。
さらに、加齢によってドライアイになる方もいます。涙の基礎分泌量が減り、表面の水分が蒸発しやすくなるため、目が乾燥しやすくなるのです。ところが、乾燥による刺激が強くなると、その結果として反射的に涙が出やすくなります。こうして「涙が少ないのに涙が出る」という少し矛盾した状態が起こります。

このように、「歳をとると涙もろくなる」というのは、心の変化と体の変化の両方が関係している現象なのです。

Q9:涙と視力は関係がありますか。スマホと涙、はどうですか。

永澤

涙は、目の表面をきれいに保ち、光の通り道を安定させる役割があります。涙の膜がしっかりしていることで、光が均一に屈折し、ものをはっきりと見ることができます。逆に、ドライアイなどで涙が少なくなると、目の表面がざらついて光の屈折が乱れ、ピントが合いにくくなり、視力が低下したように感じることがあります。このように、涙と視力には密接な関係があります。

そして、スマートフォンを長時間見続けることには注意が必要です。集中して画面を見ていると、まばたきの回数が減り、目の表面に涙が補給されなくなります。その結果、乾燥してドライアイになりやすくなります。意識的にまばたきをしたり、画面から少し離れて見るようにしたりすることが大切です。
また、スマホを長時間近くで見続けると、目を内側に寄せる筋肉が緊張し、内斜視(寄り目)や近視の進行を招くこともあります。涙の減少だけでなく、視力や目の位置にも影響を与えるため、スマホの使い方には気をつけたいですね。

Q10:涙について、医学の世界でいまだに謎となっていることはどんなことですか。

永澤

ヒトはまばたきをしないわけにはいきませんが、ウサギはほとんどまばたきをしないといわれています。これは、涙の表面を覆う油の層の構造に違いがあるからではないか、という説もあります。
涙には、基礎的に分泌されるもの、刺激によって反射的に出るもの、そして感情によって流れるものの3種類がありますが、感情で涙を流すのはヒトだけだともいわれます。その理由は、ヒトの大脳辺縁系が他の動物に比べて非常に発達しており、感情表現と涙の分泌が強く結びついているためだと考えられています。

また、涙に含まれるタンパク質はおよそ数千種類にも及ぶという報告もあり、その多くの役割はいまだ解明されていません。つまり、私たちが「涙」について知っていることは、まだほんの一部にすぎないのです。
一方で、涙は採血などに比べて比較的簡単に採取できるため、近年ではバイオマーカーとしての応用研究も進んでいます。がんやアルツハイマー病など、全身の病気の早期発見につながる可能性も期待されています。

私自身、日々の診療の中で「涙で困っている人はこんなに多いのか」と感じることがあります。実際、涙の検査をきっかけにシェーグレン症候群のような免疫疾患が見つかることもあります。だからこそ、涙は感情だけでなく、健康を映し出す大切なサインでもあります。もし涙に関して気になることがあれば、ぜひ一度、眼科を訪れてみてください。

Text:空豆みきお(akaoni)
Photo : 三浦晴子

永澤 拓也(ながさわ たくや)

青森県出身。2020年に東北大学医学部医学科卒業。初期研修を経て2022年より眼科医として勤務。2024年より東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科学分野博士課程に入学。

眼科医がお答えします「涙をめぐる10の質問」(前編)

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