ブックレビュー『みんな水の中』
横道誠 著
医学書院、2021年
2025.11.12 Wed
神経発達症群の当事者であり、文学研究者でもある著者が、自身の体験世界を描いた一冊。
「詩のように。」「論文的に。」「小説風に。」の三部構成で、これらの質感が重なり合い、読んでいると、まるで水の中を漂っているような感覚になる。
文学や芸術作品が多く引用されているのも、本書の特徴である。それらは著者にとって、他者から理解されにくい感覚を言葉にするための手がかりであり、世界とつながるための方法でもあるという。
冒頭には、『星の王子さま』の一節、「水は心にも良いものなのかもしれないな。」という言葉が引用されている。(この言葉を、私は、水を見つけるまでに飛行士と過ごした時間や関係そのものを“水”に重ねている場面として解釈している。)生きることは、誰かと関わりながら続いていく長い道のりであり、みんなそれぞれに感じ方や得意・苦手は違っても、人間らしさは、きっと同じ場所にある。そうした小さな確信が、さまざまな創作物の言葉を通じて、読後に残る。
著者は、生きづらさをもたらす「障害」について、医学モデルはその原因を個人の内側に求める一方で、社会モデルでは社会の側に見出すことができると指摘する。本書は、それら二つのモデルのあいだを行き来しながら、どちらにも収まりきらない現実を、赤裸々に、時にユーモアを交えて描いている。できることもあれば、できないこともある。しかしそれは欠如や障害ではない。著者は、社会モデルをより強く機能させ、脳の多様性を前提とする社会のあり方を提案している。
私たちはそれぞれの深さで、それぞれの感じ方のまま、水の中を静かにたゆたっている。社会もまた、水のように自由に形を変えていくことができる。“みんな”が水の中にいる。そんな共通の理解を持とうとすることが、今の社会には必要なのかもしれない。
本メディア「LIFE」もまた、医学の知と、誰かの言葉や生きる知恵のあいだで、いのちを見つめ直す場所でありたいと思う。
Text 溝部鈴
Photo 三浦晴子