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〔いのち)の可能性をみつめる

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ブックレビュー『水惑星の旅』 

椎名誠 著
新潮選書、2011年

透明なものの価値に気づくこと、大切にすることは難しい。水がまさにそう。21世紀は、この地球という水の星の〈いのち〉とともにある清き水の価値を再発見する時代になるのか。それとも、奪い合いと汚染をさらに深めてしまうのか。
ヒトはこの星で水とともに生きていて、水なしでは生きていけないということでは誰しも同じである一方で、世界各国で水の事情はさまざまに違うし、どこに暮らしているかで水の価値観も水との付き合い方もまるで違う。「水は不平等に存在している」ということを普段のわたしたちは気づかずにいる。本書「まえがき」に記述された、旅の経験豊富な著者が異国で目にしてきた、いかにして人々が暮らしのなかで苦労して独自の方法を編み出して安全な水を得ているのかの光景は、壮絶である。

カラハリ砂漠のブッシュマンは水のありそうなところをみんなで手で掘っていき、深さ三メートルぐらいの逆円錐形の穴にする。一人が逆さになってさらに穴の底を掘っていき、いくらか湿った土にいきあたると葦の茎を差し込んでストロー代わりにして水分を吸っては、半分にしたダチョウの卵の殻を水瓶がわりに吸い込んだ水を吐いていく。けれど本当に微量の水しか採取できないことが多いので、水よりも唾液の方が多いというすさまじいものがその成果である。(「まえがき」より)

そして、本編において著者は、この水の惑星のさまざまな場所をさまざまな水の視点から訪ね歩く。たとえばスコットランドのスペイ川、インドのガンジス川、そしてラオス、ミャンマー、タイなど複数の国をまたがるメコン川などの流域には、そこに暮らしてきた人々のそれぞれの歴史やルールや争いがあったこと。世界は水飢饉や水戦争の様相を見せつつあること。安全な水にアクセスできない人のために飲み水をつくる技術の開発が進められていること。安全でおいしい水を奪い合うウォータービジネスが日本の水脈を狙っていること。体の多くが水であるわたしたち人間は言わば「水袋」のような存在であり、水によって生きていること…といった事実を、世界各地の水の現場に読者を導きながら描き出す。

さまざまな話題があり、憂いがあり、考えるべきことがある。身近な存在である水は、考えてゆくと地球規模の途方もなく大きな問題へと突き当たってしまう。また、日本がいかに水に恵まれた素晴らしい国であるかを再認識する。そして、その恵みをこの国はいかに粗末にしているかという嘆きが滲んでもいる。

Text 空豆みきお
Photo 三浦晴子

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