
患者の社会復帰を支える、あたらしい医療をつくる(前編)
張替秀郎(東北大学病院 病院長)
2026.3.25 Wed
わたしたちが暮らすこの東北という地域における医療のかなめ。特定機能病院として高度医療を提供する使命。臨床研究中核病院として臨床研究や治験を推進する役目。そして、国際卓越研究大学としてのさらなる研究力向上など、東北大学病院はいま大きな社会的役割を幾重にもまとっています。
そんな東北大学病院が「社会」という言葉を想うとき、そこにはどのようなまなざしがあるのでしょうか。2023年から東北大学病院長を務め、2026年3月末に退任のときを迎える張替秀郎氏にお話をうかがいます。
「社会」という言葉から、どのようなことをイメージされるでしょう。
張替
病院は、患者さんの社会復帰を支えるところです。患者さんを社会に戻す、というやりかたで社会を支える存在である、と言えるでしょう。もちろん、ほかの病院にはない役目、たとえば「研究すること」「医療をつくること」「医療人を育てること」といったような特別な役目をわれわれ東北大学病院はもっているわけですが、地域医療に医療人を送りだすということも、将来的なあたらしい医療をつくるということも、やはり地域や将来の社会を支える手段を提供するものですから、「支える」ということで根本はおなじです。どれだけさまざまな役割があっても、すべてはそこに帰結すると言えるのではないでしょうか。
「医療をつくる」というのは、東北大学病院らしい言葉ですね。
張替
大学病院である以上、大きな役割のひとつは「研究」です。病院における研究とは、基礎研究も臨床研究も、単に論文にしておわりではなく、それを「かたちにする」ところまでやらなければなりません。事業化し、患者さんのところまで届けること。研究の先にある「医療をつくる」ことが、わたしたちの大切な役目です。あたらしい薬を治験で使ったり、あたらしい医療機器を使ったり、ということを通して、日々あたらしい医療をつくっていく。そしてそれを発信していくということです。
たとえば「Weekend Radiotherapy1」という土曜日のみの放射線治療などもまさにそのひとつで、働きながらの治療が可能な、患者さんへの負担が非常に小さくすむものです。こうしたより良い治療効果があるあたらしい医療を提供することによって、通院がむずかしい人でも診療機会が増えたり、治るひとが増えたりする。それもまた社会への還元であり、社会を支えることだと考えます。

東北地方は東日本大震災という経験と記憶を刻んできましたし、人口減少と高齢化の進行など様々な先進的課題に直面しています。東北大学病院がこれから向き合うことになる課題や、それに対する取り組みとはどんなものでしょうか。
張替
ローカルという視点で見れば、たしかに東北地方は人口減少と高齢化という課題に直面したフロンティアであり、他地域よりも早くそれらの課題に向き合うことになるでしょう。病院のかたちや医療人材の確保といったいろいろな問題が顕在化してきます。それはまわりの病院もおなじで、地域全体がそうした状況を迎えるなかで、では東北大学病院はなにを維持すべきかが問われてきます。規模も診療の内容も含めてその状況にアダプトさせていかなければなりません。事業内容や規模感の適正化をはかりながら、やはり他の病院とはちがう、この地域のなかで東北大学病院が提供すべき医療というものを明確にしていくことになるでしょう。
すでに申し上げたように、あたらしい医療人材の育成を通して地域を支えるのもわれわれ東北大学病院の重要な役目ですが、もしかすると実際に人を派遣するのではなく、遠隔医療を提供するという可能性もあるでしょう。自治体病院のありかたや社会保障制度も大きく変わっていくなかで、当然そこに必要な医療人や必要な医療のかたちもさまざまに変化するはず。どんなときにも地域医療に頼るひとたちが困らないような医療を提供していくということは、やはり大学病院として考えなければならないし、医療格差が生じないような医療のありかたを模索しなければなりません。
「フロンティア」とおっしゃいましたが、こういった地域の課題に向き合う東北は先進地であるという捉えかたもできるでしょうか。
張替
あたらしい課題を解決する場にはなるでしょうが、果たしてそれが研究的なアドバンテージになるかというとすこし疑問です。遠隔医療の実証化に最適な環境になりうるとしても、それは必然的にやらざるをえないだけのこと。結局のところ医療のありかたはそれぞれの地域でちがうので、たとえ人口減少や高齢化というおなじ課題であっても、東北地方のように広域で過疎が進むところと都心部では状況がまるでちがいますから、医療のありかたもちがって当然です。われわれは東北地方に合った医療を提供していく。それが全国的にアダプトするものであれば広まるでしょうが、東北地方でベストと思われる医療のありかたが全国的にマッチするだけの汎用性があるものかはわかりません。
とはいえ、このような状況をポジティブにとらえることは必要でしょう。自治体病院の縮小や診療所化、場合によっては廃止ということにもなり、無医村も増えていくということが東北地方では急速に進んでいくでしょうから、社会を維持する、社会を支えるというところで役に立つのであれば、それは東北大学病院にとって非常にやりがいのある役割となるのではないでしょうか。
※「患者の社会復帰を支える、あたらしい医療をつくる(後編)」は、3月30日公開予定です
Text:空豆みきお
Photo:三浦晴子
- Weekend Radiotherapy…東北大学病院が国内で初めて導入した、毎週土曜日に放射線治療を実施する体制。2025年1月より、前立腺がんを対象に、MRリニアックによるがん放射線治療を実施している。平日の通院が困難な働く世代や都市部から離れた地域に住む患者に対し、通院負担の軽減とともに、最新のがん治療機会の拡大を図る。 ↩︎
張替秀郎(はりがえ ひでお)
茨城県出身。1986年東北大学医学部卒業。東北大学医学部第二内科、米国ロックフェラー大学研究員などを経て、2007年に東北大学大学院医学系研究科血液免疫病学分野教授に就任。東北大学病院副病院長を経て2023年4月より東北大学病院長、東北大学理事・副学長(医療・共創戦略担当)。専門は血液内科学。2026年3月末、東北大学病院長を退任予定。