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〔いのち)の可能性をみつめる

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心と身体の健康を保つために大切な睡眠

睡眠医療センター 小川 浩正

新型コロナウイルス感染症に対する恐怖、不安などから、心身の不調を強く感じている方もいるのではないでしょうか。また、感染予防のため、外出を控えるようになり、十分な睡眠が取れなくなっている方もいるのではないでしょうか。新型コロナウイルスとどのように付き合っていくか。心と身体の健康を保つために、睡眠の大切さをお話します。

睡眠は、心と身体のセルフメンテナンスシステムです。脳の休養の時間といわれるノンレム睡眠時に、疲労の回復や細胞の修復、夢を見るレム睡眠時に、記憶情報の整理や感情の適正化が行われています。ノンレム睡眠時の最も深い睡眠の時間に、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチンなどといった代謝や免疫を強める機能に関連したホルモンが大量に分泌され、回復を早めようとします。また、最も深い睡眠の時間には、脳の働きの結果生み出された老廃物を洗い流していることも解ってきています。そして、レム睡眠時に、大事な記憶が固定され、怒りや恐怖などの情動はリセットされています。

人はウイルスに感染すると眠くなり、積極的に睡眠を取るようになります。ウイルスが身体に入り込みますと、白血球が免疫反応を行うサイトカインという物質を作り、ウイルスの増殖を抑えるとともに、脳に働いて熱を出し、睡眠をもたらします。睡眠は、身体の防御システム上も大事な役割を担っているものと考えられており、感染予防のためにも重要です。睡眠時間が短くなりますと、ウイルス感染率が3〜4倍に上がると報告されています。睡眠時間が6時間未満の人は、7時間を超える睡眠を取っている人に比べ、圧倒的に感染率が高いといえ、分岐点は7時間です。睡眠が不足しますと、免疫が弱くなるだけではなく、予防接種の効果も低下することが報告されています。インフルエンザワクチン接種前後、4時間睡眠であったグループの抗体の出来は、7.5〜8.5時間睡眠のグループの半分以下というものでした。感染予防のためには、普段から質の良い7〜8時間の睡眠を取ることが重要といえます。そして、体調が悪い場合は、睡眠を十分取ることが大切であるともいえます。

睡眠は、心の健康を保つためにも重要です。レム睡眠時、感情を適正に処理し、マイナスな感情はリセットされます。睡眠が不十分ですと、生体機能の回復に必要なノンレム睡眠が優先され、レム睡眠時間が短くなり、不快なマイナスな感情にとても敏感になります。結果、抑うつが強まることとなります。嫌なことがあったときほど、しっかり睡眠を取ることが必要です。

心と身体の健康を保つためには、睡眠時間とともに、質の良い睡眠を取ることが必要です。十分な睡眠時間を取っていても、日中に眠気を感じていれば、睡眠の質が悪いことになります。また、眠気を感じなくても、朝目覚めたときにだるくてすっきりしない、疲れやすい、イライラする、集中力が続かない、寝ても嫌なことが忘れられないなども、睡眠の質が悪いことを示しています。血圧が高くなってきた、動悸を感じるようになったなど、交感神経が亢進している症状も、睡眠の質の低下を示しています。睡眠の質を高めるためには、毎朝同じ時間に起きて太陽の光を浴び、適度な運動をするといった規則正しい生活をすることが大切です。そして、眠る2時間くらい前に38℃のぬるめのお湯に30分くらい浸かり、ゆっくり温まるとよいでしょう。

小川 浩正
(おがわ ひろまさ)

1964年生まれ。茨城県出身。1989年東北大学医学部卒業。1996年同大学大学院博士課程修了。2004年東北大学保健管理センター、感染症呼吸器内科准教授、2010年同大学環境・安全推進センター、産業医分野准教授。2020年東北大学病院睡眠医療センターセンター長就任。2022年東北大学環境・安全推進センター産業医分野教授。

※東北大学病院広報誌「hesso」34号(2022年5月31日発行)より転載

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東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」