TOHOKU MEDICINE LIFE MAGAZINE

東北大学医療系メディア「ライフ」マガジン

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

〔いのち)の可能性をみつめる

TOHOKU MEDICINE LIFE MAGAZINE

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

〔いのち)の可能性をみつめる

痛みの種類と対処法

麻酔科 山内 正憲

痛みは不快で人を不安にさせるものです。とても痛いけがや突然の腹痛があると、大きな病気を想像してすごく心細くなるでしょう。また、いわゆる神経痛は強い痛みではなくても、じわじわと嫌な痛みでイライラしてストレスになります。

不思議なことに、嬉しい時や気合が入っていると、痛くても辛さを感じないこともあります。スポーツで集中力が高まっていると、激しいぶつかり合いで痛みすら感じないことは珍しくありません。反対に不安やストレスは痛みを強く感じさせ、時に体が傷つかない程度に触っただけで大きな反応を示し、神経痛が我慢できなくなります。

痛みが多彩に変化する理由は、痛みの種類と周囲の状況が複雑に絡み合っているからです。痛みの分類はさまざまで、慢性痛と急性痛、体の痛みと心の痛み、治療できる痛みとそうではない痛みなどがあり、治療もそれぞれに合わせた対応が必要になります。

ここでは痛みの生じ方による3つの分類を説明します。「生じ方」とは体の変化のことで、専門的には「病理学的」といいますが、摘出した組織と違って、人間の神経や脳を切り取って顕微鏡を見ながら病理学的に診断することはできないので、「生じ方」としています。この3つの分類は、原因が異なるため治療や対処法も違ってきます。

まずは「侵害受容性痛」です。打撲で赤く腫れ上がったり、手術や処置で炎症が起きたときに生じる痛みです。皮膚や内臓などにある侵害受容器(TRPチャネル*1)に炎症性物質が結合することで痛みを生じます。腫れや炎症を抑えると痛みは和らぐので、冷却やNSAIDs(エヌセイズ)*2と呼ばれる消炎鎮痛薬、アセトアミノフェンなどの腫れ止めが効果的です。腫れている期間は急性期でけがや病気をしてから数日間程度のことが多いです。この期間に神経ブロックで痛みの伝導をブロックすることも極めて効果的です。急性痛、すなわち急性期の侵害受容性痛を神経ブロックや薬で抑えることは、その後の慢性痛や神経痛への移行を防ぐことにつながります。

次に「神経障害性痛」です。神経痛に多くみられ、神経が傷ついた結果、痛みを伝えやすくなり、さらにその傷が正常に修復されないと、電気の走る感じや触っただけで不快な痛みを生じることがあります。痛みの強さは我慢できる程度のことが多いですが、不快さが持続することでストレスが大きくなります。治療は早期の神経ブロックと神経の伝導を抑える薬が有効です。抗うつ薬も、脳内で痛みを抑える作用があるので使用します。正座した後に足がしびれるのは一時的な坐骨神経の圧迫障害で、神経障害性痛の症状と同じです。

最後に「痛覚変調性痛」です。痛みが末梢神経から脊髄、そして脳へと伝達される過程で、不安やストレスにより過敏に反応しやすくなる状態です。痛みの刺激が続くことでも生じます。周囲からは「痛みに敏感」と評価されるだけで、つらさが理解されにくい状態です。体の痛みとしての治療として使われるNSAIDsなどの鎮痛薬の効果は小さく、認知行動療法や自己肯定感を高めるトレーニングを行い、痛みへの不安を小さくしていきます。

この3種類の痛みが同時に生じることも珍しくありません。さらに環境因子、不安・安心などの心理的因子がこれらの痛みを強めたり和らげたりすることが知られています。治療はそれぞれの原因に応じて薬、神経ブロック、痛みを受け入れた生活、痛みへの対応を学ぶ、などを使い分ける必要があります。薬の限界や副作用もあるので、すべての痛みをゼロにしたり、「あと少し」の改善ができそうで難しいです。環境や心理的な問題を取り除くこと、痛みとの向き合い方の指導、受容のトレーニング、周囲と連携した対応も治療として行っています。

適切な痛みの診断と対処で、痛みに振り回されずに生活することを目指しましょう。

*1 TRPチャネル:Transient Receptor Potentialチャネルといい、痛みや温度の感覚のセンサーとして機能によってたくさんの種類があります。感覚だけではなく、さまざまな刺激への反応にも影響していることがわかり、発見者は2021年ノーベル医学生理学賞を受賞しました。ワサビとトウガラシの辛さの違いや、微妙な温度の変化を、舌や皮膚のTRP受容体が区別しているのです。
*2 NSAIDs :非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)
一般的には消炎鎮痛薬と呼ばれ、疼痛、発熱の治療に使用します。

山内 正憲
(やまうち まさのり)

1966年生まれ。北海道出身。1991年札幌医科大学卒業、1998年同大学院卒業。米国エール大学などを経て、2013年に東北大学麻酔科学・周術期医学分野教授に就任。麻酔科学、ペインクリニック、神経ブロックの第一人者。医工連携や企業との共同研究にも力を入れている。

※東北大学病院広報誌「hesso」37号(2023年2月28日発行)より転載

関連リンク
東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」