脳卒中
脳神経外科 遠藤 英徳
2025.3.27 Thu
脳卒中という病気をご存じでしょうか? _脳卒中は脳血管の病気の総称で、「卒然に中る(あたる)」=「突然倒れる」ことが病気の特徴であることからそのように呼ばれるようになったそうです。脳卒中には、血管が詰まることによる「脳梗塞」、血管が破れることによる「脳出血」、脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)が破裂することによる「くも膜下出血」が含まれます。それぞれの病気について少し詳しくお話しすることにします。
「脳梗塞」は、脳血管の動脈硬化を原因とするものと、心臓の不整脈を原因とするものに分類されます。脳血管の動脈硬化は一般的に加齢とともに進行しますが、高血圧・糖尿病・脂質異常などの合併症はさらに脳血管に悪さをします。動脈硬化が進行すると、血管の中に粥腫(じゅくしゅ)と呼ばれるコレステロールの塊がたまり、血管が狭くなったり、しまいには詰まってしまったりと良いことがありません。また、最近では不整脈を原因とする脳梗塞も増えていて、特に「心房細動」と呼ばれるタイプの不整脈には注意が必要です。心房細動は高齢者に多い不整脈の一つですが、心臓の電気回路に異常が生じ、鼓動のリズムが不安定となり、心臓の内部に「血栓」と呼ばれる血の塊ができてしまいます。この血栓が心臓を出て脳血管に向かって流れ、最終的に脳血管のどこかに引っかかってしまうと、脳の血液の流れがブロックされて脳梗塞に至ります。近年、血栓が詰まった血管にカテーテル*1と呼ばれる細い管を通して血栓を取り除く「血栓回収術」により助かる患者さんも増えていますが、普段からの予防が重要で、血栓予防薬の内服をお勧めする場合もあります。
「脳出血」は、脳血管の中でも特に「穿通枝(せんつうし)」と呼ばれるとても細い血管に起こる動脈硬化が原因となって起こる病気です。穿通枝は脳の内部を網の目のように貫通して走行しますが、長期にわたって高血圧にさらされると耐えきれなくなり、脳の内部である時突然に出血をきたします。手術を行って命が助かったとしても重い後遺症を残すことが多く、脳梗塞と同様に予防が重要になります。
「くも膜下出血」は脳動脈瘤と呼ばれる、血管の「瘤(こぶ)」が破裂することで起こる、時として命に関わる怖い病気です。開頭して脳動脈瘤をクリップして止血するクリッピング*2という手術に加えて、前述したカテーテルを使用して脳動脈瘤内部にコイル*2を充填する塞栓術も発達し、命が助かる患者さんが増えてきました。脳動脈瘤は破裂する前に脳ドックなどの健診で見つかる場合もあります。このような脳動脈瘤を「未破裂脳動脈瘤」と呼び、形の悪いもの、大きなものなど、将来的に破裂する危険性の高いものには手術をお勧めする場合もあります。
高血圧・糖尿病・脂質異常などの合併症を、脳卒中における「危険因子」や「リスク因子」などと呼び、脳卒中の予防に重要であることを私自身あちこちで啓蒙していますが、なかなかうまくいきません。塩辛いモノ・甘いモノ・油っぽいモノなどの食生活や、飲酒・喫煙・運動不足などの生活習慣はこれらに影響を与える重要な因子と言われていますが、これらの誘惑を断ち切ることは並大抵のことではありません。大人になってからこのような習慣を直すのは難しいので、子供の時からのしつけや教育が実は非常に重要です。こういった食生活・生活習慣は体にとても悪い、という考えを子供の頃から知っていると、大人になってから悪い習慣を避けることができるようになると思います。
しかし諦める事なかれ。これを読んでいただいている大人の読者の皆さん、まだ手遅れではありません。普段の食生活や生活習慣を少しでも見直すことで脳卒中を予防して有意義な人生を過ごしましょう。
*1 カテーテルは鼠蹊部(そけいぶ)の血管から挿入する細い管で、大動脈、を通過して脳血管まで到達することが可能です。
*2 クリップはチタン、コイルはプラチナと呼ばれる体内において安全性の高い金属で作られ、留置してもMRIなどの画像検査が可能です。飛行機やプールも問題ありません。
遠藤 英徳
(えんどう ひでのり)
1976年生まれ。岩手県盛岡市出身。2001年東北大学医学部卒業。米国スタンフォード大学、広南病院脳神経外科部長・副院長などを経て、2023年に東北大学大学院医学系研究科神経外科学分野教授、東北大学病院脳神経外科科長に就任。脳卒中の直達術・血管内治療の二刀流術者であり、脳動脈瘤、脳梗塞、脳動静脈奇形、もやもや病などの治療の専門家。
※東北大学病院広報誌「hesso」40号(2023年10月31日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」