肥満と糖尿病 万病のもと?
糖尿病代謝・内分泌内科 片桐 秀樹
2025.3.27 Thu
肥満になると、糖尿病になりやすいというのはよく知られていますね。ではなぜ肥満になると糖尿病になりやすいのでしょう。
私たちの体の中で血糖値を上げるホルモンはたくさんありますが、血糖値を下げることはインスリンというホルモンだけが一手に引き受けています。ですから、体の中で作られるインスリンが減ったり、その効きが悪くなったりすると、血糖値が上がります。でも、本来インスリンは、血糖値調節のためというより、食べ物・飲み物などからの炭水化物や糖分を、後で使うため、血の中から筋肉や肝臓・脂肪細胞などの細胞の中へと移し入れるように働いています。移し入れた結果として、血糖値が下がるわけです。しかし、肥満の状態では、細胞の中の栄養分はあり余っていますので、インスリンが糖分を細胞に移し入れようとしても、細胞としてはもうこれ以上は入らないといった状況になっていて、血の中で糖分がだぶついた状態、つまり糖尿病になるというわけです。ですから、肥満になると糖尿病になりやすいだけでなく、肥満を解消すると改善しやすくなります。
肥満は、糖尿病の他にも、多くの健康障害を起こしやすいことが知られています。高脂血症(脂質異常症)、高血圧やこれらを合併したメタボリックシンドローム、それに、心筋梗塞、脳梗塞、腎臓病、肝障害、逆流性食道炎など、多くの重要臓器にも病気が出やすくなります。さらに、睡眠や月経の異常、不妊、高尿酸血症や通風、腰痛や膝の痛みといったことも起こしやすく、大腸がんや肝細胞がんなど悪性腫瘍のリスクも増えます。このように、肥満は万病のもとともいえます。怖いことばかりを書きましたが、むやみに恐れるのではなく、前向きにどうすればこれらのリスクを減らしていけるかを考えましょう。
肥満の原因として、ホルモン異常(内分泌疾患)がはっきりしている場合(二次性肥満)は、元の病気の治療を行うことで改善が期待できますので、一度は内分泌に関する検査を受けてみることをお勧めします。一方、原因がはっきりしない(原発性肥満)ことも多く、その場合は第一の対策として、やはり食事・運動療法が中心となります。
糖尿病の治療を考えた場合でも、薬といえば、従来はインスリンを増やしたりその効きを良くしたりする薬剤やインスリンそのものを注射で補充する治療法が中心でした。しかし、インスリンの働きは血中から細胞へ栄養分を移し入れることですから、これらの治療では、血糖値は下がっても大本の原因である肥満は解消できず、食事・運動療法を厳しくせざるを得ませんでした。
しかし最近は、高度な肥満に対して、手術で胃を小さくする外科治療(減量代謝改善手術)も保険診療として普及していて大幅な減量も可能です。また、薬での治療でも、糖尿病の治療薬の中には、おしっこに糖を出させる薬、食欲を抑える働きのある薬など、体重を減らす効果のあるものが続々と処方できるようになり、大きな話題になっています。特に、食欲を抑える薬(患者さん自身が週に一回皮下へ注射するものが主流)は、大きな体重減少効果が認められるものもあります。しかし、副作用もあり注意しないといけないことが多く、糖尿病を専門とする医師の診療のもと、適切に使用しなければならないことをご理解ください。
肥満や糖尿病の治療は、現在日進月歩で、次々と新たな薬剤が上市されています。また、痩せている方でも、インスリンを作る力が落ちると糖尿病になりますが、それに対しても、治療法はどんどん進歩しています。薬で肥満が解消できたり、インスリンを作る細胞を再生させたりして、糖尿病や肥満に基づく「万病」を防ぐことができる時代も近づいているように思いますし、我々もそれを目指して研究を進めているところです。
片桐 秀樹(
かたぎり ひでき)
1987年東京大学医学部卒、2003年より東北大学医学部教授、2013年より東北大学病院糖尿病代謝科(現、糖尿病代謝・内分泌内科)診療科長。2017年より東北大学大学院医学系研究科副研究科長、2020年より内閣府ムーンショット型研究開発事業のプロジェクトマネージャー。
※東北大学病院広報誌「hesso」42号(2024年2月29日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」