夜間頻尿
泌尿器科 伊藤 明宏
2025.3.27 Thu
夜間に排尿のために起きなければならないお悩みのことを「夜間頻尿」といいます。回数が少なければあまり気にならない方もいますが、多くなると眠りに影響するだけでなく、体への負担も生じてきます。夜間頻尿の原因には、昼夜を通して尿量が多いこと(多尿)、夜間のみ尿量が多いこと(夜間多尿)、膀胱にためられる尿量が少ないこと(膀胱蓄尿障害)、睡眠障害などがあげられます。
夜間多尿は、一日尿量の三分の一以上が夜間の睡眠中に作られる状態です(65歳以下では五分の一以上)。夜間は尿が濃縮されてあまり作られないようになっていますが、老化などで尿の濃縮力が低下すると夜間の尿量が増加します。高齢者や心臓の働きの弱い方では、立位が多い日中には下半身に水分がたまりがちですが、夜に横たわると水分が心臓に戻り、余計な水分を尿として体の外に出すので尿量が増えます。健康な若い方は夜間に血圧が低下しますが、高齢者や高血圧の方は夜間の血圧低下が少ないので、夜間の尿量が増加します。
膀胱の病気である過活動膀胱は、膀胱に尿が十分にたまっていないのにすぐにトイレに行きたくなって漏らしてしまいそうになる状態ですが、日中の頻尿や夜間頻尿もみられます。前立腺肥大症では膀胱の出口にある前立腺が大きくなり尿が出にくくなりますが、膀胱に負担がかかるために頻尿になりますし、排尿をした後に膀胱内に尿が残っているとすぐに膀胱がいっぱいになるので尿の回数が増えます。
高齢者では、睡眠の途中で目覚めてしまって排尿をしたくなる方もいますし、排尿をしたくなったために睡眠途中で目覚めてしまう方もいます。睡眠時無呼吸症候群では不眠だけでなく夜間頻尿もみられます。
その他いろいろな理由から、水分を多く摂取しているために夜間頻尿となる方もみられます。利尿薬を飲むことでも多尿となりますし、糖尿病による尿糖の増加や、尿糖を増加させるタイプの糖尿病治療薬によっても尿量が増加します。また、喫煙によっても頻尿が生じます。
このような夜間頻尿の診療を泌尿器科で行う際には、膀胱や前立腺の検査の前に、内科的疾患、神経疾患、睡眠も含めた全身に関わる病歴をお聞きします。水分、アルコール、カフェインの摂取状況、尿量に影響するような薬の服薬状況、喫煙や生活スタイルも重要です。簡単ですが大切な検査として排尿日誌を付けていただきます。朝起きてから翌日の朝まで、排尿した時刻と、計量カップなどで測定した排尿量を記録するものです。昼夜の排尿回数、一回の排尿量、一日の尿量、夜間尿量などを知ることができます。
夜間頻尿の治療においては、まずは心臓病、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群など、夜間頻尿の原因となる病気の治療が大切です。さらに頻尿を改善する薬を使用する前に、行動療法と呼ばれる治療が行われます。水分、アルコール、カフェインの摂取が多い場合には控えるようにし、禁煙指導も行います。塩分摂取が多い場合には、塩分量を減らすことで夜間多尿が改善されます。また、ふくらはぎは第二の心臓といわれていますが、夕方に散歩をすると下半身にたまった水分を筋肉のポンプ作用で血管内に戻して、尿として体外に出すことが可能となります。運動による発汗も水分を体外に出すことになるので、夜間頻尿に有効です。内服薬での治療としては、夜間の尿量を軽減する薬、膀胱での尿をためる働きを改善する薬、前立腺肥大症に対する薬、不眠症に対する薬などが使用されます。
このように夜間頻尿にはいろいろな原因があり、適切な対処方法がありますので、お悩みの方は専門の医師にご相談ください。
伊藤 明宏
(いとう あきひろ)
1964年仙台市生まれ。1990年東北大学医学部卒業。2018年4月より東北大学病院泌尿器科長。2018年12月より東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学分野教授。
※東北大学病院広報誌「hesso」43号(2024年4月30日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」