ご存知ですか、すいぞうの病気
消化器内科 正宗 淳
2025.3.27 Thu
皆さん、臓器の「すいぞう」を漢字で書けますか。「膵臓」ですが、なかなか難しいかもしれません。新聞などでも「すい臓」と、あるいはふりがなと共に書かれていることが多く、一般の方々にはあまり馴染みのない臓器です。しかし最近、すい臓の病気と診断される方が増え、にわかに注目されています。
すい臓は胃の後ろ側にある長さ12〜15cm、重さ100g ほどの臓器です。血糖値を下げるインスリンを作る内分泌臓器として有名ですが、糖質を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素を作る外分泌臓器としての働きを併せ持つ、いわば二刀流の臓器です。
すい臓の病気は、すい臓が炎症を起こしてしまう「すい炎」と「すい臓がん」などの腫瘍に大きく分けられます。急性すい炎は、本来食べ物を溶かすはずの消化酵素が、すい臓自身を溶かしてしまう病気です。お酒の飲みすぎや胆石が二大成因で、前者は中高年の男性、後者は高齢の女性に多いという特徴があります。急性すい炎の痛みは、我慢できないくらいひどいことが多く、おなかの中の火傷とも呼ばれています。
急性すい炎の多くは1〜2週間の入院でひどい後遺症もなく治ります。しかし、約4分の1の患者さんは、すい臓に感染が起こったり、炎症が全身に広がったりして、重症化してしまいます。この状態になると、集中治療室で人工呼吸器を付けたり、透析を行ったり、場合によっては胃カメラを用いた治療や外科手術など、あらゆる手を尽くして治療にあたります。それでも6%の方が亡くなってしまいます。
急性すい炎が良くなっても油断は禁物です。すい炎発作が再び起こることが少なくありません。お酒を飲み続けたり、たばこを吸い続けたりすることが、そのリスクを高くします。そして、すい炎を繰り返すうちに慢性すい炎になってしまいます。すい臓はどんどん硬く痩せ細り、その働きも悪くなります。食べ物が消化されないまま大腸に流れ込むと発酵反応が起き、悪臭物質の産生増加と相まって、食後すぐにトイレに行きたくなる、おなかが張る、便やおならがひどく臭う、便に脂肪が混じるなどの症状をきたします。糖尿病のため、インスリンの注射が必要となる患者さんも少なくありません。慢性すい炎は一度病気になってしまうと治らない、進行するという特徴があります。このため、慢性すい炎を早期診断するための世界初の基準が2009年に日本で作られました。
そして、すい臓の病気で忘れてはならないのがすい臓がんです。2022年には1年間に約4万4500人の方がすい臓がんと診断され、約3万9500人の方が亡くなられています。がんの種類別死亡数としては、男性では4番目、女性では3番目に多く、米国では2030年までに2番目に死亡数の多いがんとなることが予想されています。
すい臓がんは早期診断が困難で、残念ながら半分近くの患者さんがステージIVという、手術の出来ない状態で診断されます。体が黄色くなる黄疸やお腹、背中の痛み、体重減少などの症状が出てから診断される方が多い一方、いわゆる早期のすい臓がんでは4分の3の患者さんが無症状の段階で診断されています。このため、症状が出る前にすい臓がんを診断することが重要となります。現在、有効なすい臓がん検診法は確立されていないため、すい臓がんができやすいリスク因子に注目をして、そのような方を対象にすい臓がんを早期に見つけようという取り組みが行われています。生活習慣の改善などによりリスクを下げ、すい臓がんにならないようにすることも大切です。東北大学病院は消化器内科、総合外科を始め、すい臓の専門家が多数在籍しています。すい臓に関して、何かご心配のことがございましたら、遠慮なくご相談ください。
正宗 淳
(まさむね あつし)
1990年東北大学医学部卒業、1996年東北大学大学院修了。2018年より東北大学大学院消化器病態学分野教授・東北大学病院消化器内科長。2024年より東北大学病院副病院長、光学医療センター長。現在、日本膵臓学会理事長、日本消化器病学会副理事長を務める。
※東北大学病院広報誌「hesso」44号(2024年8月31日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」