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〔いのち)の可能性をみつめる

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人食いバクテリア

救急科 講師|佐藤哲哉

激しい四肢痛、受診して

急速に症状進行

 新型コロナウイルス感染症の流行後、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者数が全国で増加しています。

 この感染症は、小児の咽頭炎を生じさせる細菌と同種のレンサ球菌が体内に侵入し、毒素を出すことで発症します。急速に症状が進行して多臓器不全となり、適切な治療が遅れると命に関わります。「人食いバクテリア」とも呼ばれ、死亡率は高く、30~40%と報告されています。

 国立感染症研究所によると、2024年1月から6月の半年間で、国内の感染者数は1060人に上りました。皮膚の傷や切り傷から細菌が侵入するケースが約44%を占め、次いで感染経路不明が約35%となっています。見た目には傷のない打撲からの侵入もあります。

 初期症状は風邪に似ているため見逃されやすく、症状としては手足の激しい痛みや、皮膚の腫れ・発赤の急速な広がりが特徴的です。高熱や強い倦怠(けんたい)感のほか、吐き気や下痢などの消化器症状を伴うことも多いです。

高齢者ら要注意

 特に注意が必要なのは、高齢者や糖尿病などの持病がある方、妊婦さんや出産直後の方、免疫力が低下している方です。また、水ぼうそうやインフルエンザにかかっている方も要注意です。予防のためには、日頃からのせきエチケットや手洗いの徹底、傷口の清潔な管理が重要です。

 原因不明の筋肉痛や関節痛を伴う発熱がある、目立った傷がないのに激しく四肢が痛むといった「いつもと違う」と感じる症状がある場合は、早めの受診を心がけましょう。早期発見・早期治療が何より大切です。特に、痛みが急激に強くなったり、皮膚の発赤や色調変化が短時間で広がったりする場合は、すぐに受診してください。

 治療は主に抗菌薬を用いて行われ、集中治療室などでの厳重な管理の下、人工呼吸器や血液透析装置を使用した高度な治療が必要です。広範な軟部組織切除、四肢切断が必要となることもあります。

 比較的珍しい感染症ですが、新型コロナウイルス感染症流行後、同種の細菌による小児の咽頭炎も増加しており、誰もが感染する可能性があります。不安な症状がある場合は、ためらわず医療機関に相談することが、自身と家族の健康を守る第一歩となります。

河北新報掲載:2025年2月28日

佐藤 哲哉
(さとう てつや)

北海道出身。2006年福井大学医学部卒業。茅ヶ崎徳洲会総合病院(現:湘南藤沢徳洲会病院)、筑波メディカルセンター病院などを経て、2011年10月より東北大学病院 高度救命救急センターへ所属。2018年東北大学大学院医学系研究科修了。みやぎ県南中核病院救急科科長を経て、2020年東北大学病院 高度救命救急センター助教、2024年同病院講師。

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