TOHOKU MEDICINE LIFE MAGAZINE

東北大学医療系メディア「ライフ」マガジン

TOHOKU UNIVERSITY SCHOOL of MEDICINE + HOSPITAL

〔いのち)の可能性をみつめる

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故郷と母

藤原喜明

 俺は岩手の江釣子村(現在の北上市)の農家に、六人兄弟の長男として生まれた。家は無駄に広く、風通しの良すぎる茅葺き。エアコンなど無い。暖を取る手段はイロリとコタツだけ。六十数㎏の米俵を担いだ骨太で大柄な母に「寒い!」と言えば「着ろ!」と一言。「まだ寒い」と言えば「春が来れば暖かくなる」夏は「暑かったら脱げ」「もう裸だ」と言えば「秋が来れば涼しくなる」そんな母だった。
 俺の趣味は盆栽。かれこれ五十年になる。冬は寝室の出窓に、寒さに弱い鉢を並べ鉢が凍らない温度に保つ。温度が高過ぎると、春が来たと勘違いしてしまうからだ。
 そんな訳で、エアコンは数日しかスイッチが入らない。
 昨年、後期高齢者の称号を手に入れた俺は、夜中に何回かトイレに起きる。つい出窓の盆栽に手を入れたくなったりする。一枚羽織れば済むのに、どうせすぐ寝るのだからと寒さをガマンしているうちに、数時間過ぎてたりする。どうやら「三つ子の魂百まで」ってやつか。
 まあ、こんな俺だから、昭和の新日本プロレスの理不尽な稽古に生き残れたのかも知れない。お母さんありがとう。

※東北大学病院広報誌「hesso」49号(2025年4月30日発行)より転載

〜番外編〜

 昔、ずっと昔、小学校の廊下の張り紙に書いてあっただろう【廊下は走るな!】って。 
 子供達が走り回ると、事故が起こるかも知れないからだろうな。
 老化だって決して走っちゃだめなんだよ。ゆっくりとゆっくりと歩かないとな。ゆっくり歩けば道端の名もない草花の美しさにドキッとしたり、踏み固められた土の上で、逞しく生きる街路樹に感動したりな。それに、つまずいて転ぶ事も無い。ひょっとして、ステキな異性に巡り合う事だってあるかも知れないじゃないか。ひょっとして小銭をひろう事だってあるかもしれないしな。誰でも年をとるんだよ。しかし年寄りになる必要なんかないんだ。
 たとえ体は年を取っても、せめて気持ちだけでも若くいようぜ。
 みんなでゆっくり歩こう人生の終点まで・・・ゆっくりとだぞ。
 いいか?ゆっくりとだ。
 約束しようぜ。

藤原 喜明

プロレスラー。1949年、岩手県北上市生まれ。1972年、新日本プロレスでデビューし、1991年には藤原組を旗揚げ。現在も現役レスラーとして活躍。「関節技の鬼」として知られる。俳優、声優、陶芸家、イラストレーターなど幅広く活動している。著書『猪木のためなら死ねる!2』(宝島社)が発売中。

「生命のつながり」と未来へのまなざし(前編)

「生命のつながり」と未来へのまなざし(後編)

《Creation》 宮田敏男

人の想いを傾聴する「臨床宗教師」のこと。