子宮外に着床する異所性妊娠
産科 医員|齋藤翔子
2025.6.27 Fri
母体死亡も 早期受診を
急に月経(生理)が止まったらどうしますか? 性交渉をした、吐き気や頭痛などつわりのような症状がある、そのような時は妊娠の可能性が否定できません。まずは市販の妊娠検査薬を使い、陽性になったら産婦人科を受診しましょう。「何を当たり前のことを」と思う方も多いかもしれませんが、当たり前のことはやっぱり大切なのです。「妊娠検査薬が陽性になった=妊娠した=出産する」ではありません。
成長すると破裂
皆さんは「異所性妊娠」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。2010~19年の妊婦さんの死亡原因のうち0.7%を占める疾患です。卵管や子宮間質部、子宮頸(けい)管といった通常の子宮内(子宮体部内膜)とは異なる場所に受精卵が着床したもので、全妊娠の1~2%程度に起こるといわれています。
通常の妊娠では赤ちゃんの成長に伴い子宮全体が大きく膨らみますが、異所性妊娠の場合には赤ちゃんの成長によりその部分が破裂するリスクがあります。診断されないまま経過した場合には、おなかの中で大量出血を来し、最悪の場合、母体死亡につながることがあります。
残念ながら異所性妊娠の予防法はありません。大切なのは早期診断・早期治療です。通常の妊娠でも異所性妊娠でも妊娠検査薬は陽性となるため、「どこに妊娠したのか」は産婦人科で超音波検査を行わないと分かりません。破裂前に診断されれば、手術療法や薬物療法(状況によっては注意深く経過観察する待機療法)を行えます。異所性妊娠のうち約97%を占める卵管妊娠では、妊娠7~8週(妊娠2~3カ月)で破裂する危険があるため、その前に受診することが重要です。
突然腹痛を発症
「仕事や育児が忙しい」「お金がない」「産むかどうか悩んでいる」「学生で誰にも相談できない」「月経不順で妊娠に気付かなかった」など、受診できない理由はさまざまです。受診しないまま問題なく経過し出産に至ることもあるでしょう。しかし、もしも異所性妊娠だった場合には、突然の腹痛で発症し、生命の危険にさらされるかもしれません。お母さんと赤ちゃん、妊娠経過に問題がないかどうか診るために妊婦健診が重要なのはもちろんのこと、その前段階として正常妊娠かどうか診断をすることも大切です。
妊娠を継続するか否かの選択、経済的・社会的・精神的な相談など、産婦人科受診から始まるサポートもあります。悩んでいるのはあなただけではありません。「妊娠したかな?」と思ったら、後回しにせず検査・受診をすることをお勧めします。
河北新報掲載:2021年10月22日

齋藤 翔子
(さいとう しょうこ)
宮城県出身。2011年に山形大学医学部を卒業。2013年に東北大学産科婦人科に入局。2019年より東北大学病院・総合周産期母子医療センター勤務。