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〔いのち)の可能性をみつめる

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慢性腎臓病(CKD)

腎臓・高血圧内科 田中 哲洋

腎臓は左右の腰より少し上に位置する握りこぶし大の臓器です。血液をろ過して尿を生成し、老廃物を体外に排出するとともに体内の水分や電解質を適切なバランスに調整しています。この機能が慢性的に低下すると慢性腎臓病(CKD)と呼ばれる状態になります。日本国内には約2000万人のCKD患者がいると推計されていますので、決して珍しい病気ではありません。

CKDは初期の段階で自覚症状を認めることはまれです。しかしながら知らないうちに進行すると、やがて老廃物の蓄積による症状(倦怠感や嘔気、食欲低下など)や水分の排泄障害による体液貯留(むくみ、高血圧)、高カリウム血症、貧血などのさまざまな症状や合併症が出現します。またCKD患者は一般的に心臓・血管合併症のリスクが高く、生命予後を損なう一因ともなっています。腎機能が著しく低下して、自分の腎臓のみで体内のバランスが保てなくなると、腎臓の機能を代替する治療(血液透析や腹膜透析、腎移植など。腎代替療法と呼んでいます)が必要になります。腎臓の機能は健康な方でも50歳前後を境にゆっくりと低下し始めますが、それでも通常は問題なくご自身の腎臓で一生を過ごすことができます。一方、CKDの患者さんは腎機能低下のスピードが速いため、CKDを早期に診断して治療を始め、腎機能低下にブレーキをかけることが重要となります。

では、一体どのようにCKDを早期診断すればよいのでしょうか?

これはなかなか難しい課題です。なぜなら冒頭で申し上げましたとおり、CKDは一般的に、早期には症状に乏しいからです。自覚症状や身体所見の変化が出現する前に腎臓の状態をチェックできる可能性として、健康診断などの機会を有効利用することが大切です。腎臓が持つ老廃物を排泄する機能は、主にクレアチニンと呼ばれる筋肉由来の代謝物を血液検査で測定することにより推定できます(この数値は、推定糸球体濾過量(eGFR)とも呼ばれます)。また、タンパク尿や血尿は腎疾患の存在を疑う大切な検査項目です。尿検査で異常を指摘された際には必ず再検査、あるいは精密検査を受けるようにしたいところです。CKDの重症度はeGFRとタンパク尿によって決まります。

またCKDの発症や進展にはある程度共通するリスク因子があり、それらをコントロールすることも重要です。多くは血糖や血圧、脂質などの生活習慣病とオーバーラップするリスク因子となります。運動習慣の確立や塩分制限、禁煙といった生活習慣を総合的に見直すことによって、腎臓に負担がかかりにくい体質を作ることも腎機能の低下を防ぐために大切です。

治療面においても、近年では腎機能の低下抑制が期待される薬剤が次々と臨床応用されています。例を挙げますと、腎臓から糖を排出することで血糖値を下げるSGLT2阻害薬と呼ばれる薬剤は、もともとは糖尿病治療薬として開発されましたが、糖尿病の有無にかかわらず腎保護作用を発揮することが明らかになりました。また、副腎で分泌されるホルモンで、体内のナトリウム・カリウムのバランスや血圧を調節するアルドステロンの働きを阻害するMR拮抗薬も、腎臓への好ましい影響が報告されています。さらにはCKDの合併症治療におきましても、従来の注射製剤ではなく内服可能な腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害薬)などが登場しています。ただし、これらの治療薬はCKDの原因疾患や症状などによってそれぞれに適応が異なってきますので、主治医の先生とよく相談しながら治療を進めていただければと思います。早期より腎臓の状態を把握して必要な治療を受けることで、生涯にわたってご自身の腎臓の機能を保ちつつ健康な社会生活を送っていただけること、これが究極の目標です。

田中 哲洋
(たなか てつひろ)

岐阜県出身。1997年東京大学医学部卒業。2005年東京大学大学院修了(医学博士)。三井記念病院、東京大学医学部付属病院腎臓・内分泌内科などを経て2022年3月より東北大学大学院医学系研究科腎臓内科学分野教授、東北大学病院腎臓・高血圧内科科長。

※東北大学病院広報誌「hesso」50号(2025年6月30日発行)より転載

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