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〔いのち)の可能性をみつめる

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その症状、産後うつかも?

菊地紗耶(東北大学病院 精神科 准教授)

頑張り過ぎずに頼って

周囲の支え必要

 「赤ちゃんが生まれてうれしいはずなのに、なぜか涙が出てしまう」「育児がつらく自分が母親失格のように思える」…。出産後、こうした気持ちに悩まされる方は少なくありません。

 出産した女性の10~15%が産後うつになると言われます。出産後数カ月以内の発症が多く、3~5割ほどは出産前から症状が出ている可能性があるとされます。妊娠中から産後にかけてのうつ病を「周産期うつ」と呼ぶこともあります。

 産後うつは、気分が落ち込む、食欲や睡眠が変化する、意欲が低下する、自分には価値がないと感じるなど、さまざまな症状が見られます。「死んでしまいたい」「赤ちゃんがかわいいと思えない」と感じてしまう方もいます。診断は、通常のうつ病と同様に、診断基準に基づき行われます。

 過去に心の病気を経験した方、妊娠や育児への不安が強い方、サポートが得にくい環境にある方などが産後うつになりやすいと言われます。パートナーも、子どもが生まれた後にうつになる可能性があると報告されています。

 予防には家族や周囲の支えが欠かせません。育児や家事を一人で抱え込まず、家族や周囲と協力することが大切です。「ありがとう」「頑張ってるね」といった声かけが、ママの心の支えになります。家族の言葉やまなざしが、何よりの治療薬になることもあるのです。

睡眠しっかりと

 産後の健診や自治体による新生児訪問などでは、心身の状態を確認し、精神科や心療内科へ紹介されることもあります。治療で大切なのは、しっかりと睡眠や休養を取ること。必要に応じ抗うつ薬などの薬物療法を行います。抗うつ薬を使用しながら授乳しても、子どもに大きな影響はないとされています。

 現在、一部の産科医療機関や助産院で、心と体を休めながら育児支援が受けられる「産後ケア事業」も行われています。宿泊型や日帰り型、助産師の訪問によるアウトリーチ型もあります。ほかに、育児ヘルパーを利用できる自治体もあります。保健センターなどで相談してみてください。

 「こんな気持ち、自分だけかも」と思い詰めず、つらいときは遠慮なく相談してください。頑張り過ぎないこと、頼ること、話すこと。これも、育児の大切な一歩です。

河北新報掲載:2025年5月9日

菊地 紗耶
(きくち さや)

宮城県出身。2002年新潟大学医学部卒業。同年東北大学病院精神科に入局。東北厚生年金病院(現・東北医科薬科大学病院)、宮城県立精神医療センターでの研修を経て、2012年東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野博士課程を修了。以後、同分野の助教、講師を経て、2024年より現職。専門は周産期精神医学。

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