胸焼けとせき・ぜんそく
亀井尚(東北大学病院 総合外科 上部消化管・血管グループ 科長)
2025.9.26 Fri
胃食道逆流、気管に悪影響
酸の刺激で炎症
典型的な消化器症状の一つに胸焼けがあります。ほとんどは、胃液や胃の内容物が食道に逆流する胃食道逆流が原因です。
飲み込んだ液体や食物は食道を通り胃に入ります。食道と胃のつなぎ目には逆流を防ぐ筋肉の仕組みがあり、何らかの理由でうまく働かなくなると、時に胃から食道へ逆流が生じます。
胃液は酸性の液体で、食道の内側の粘膜は酸に弱い細胞ですので、逆流が起こると酸の刺激によって下部食道を中心に炎症を起こしてしまいます。常に逆流しているわけではなく、炎症が起こったり、治ったりを繰り返します。
逆流の程度が大きく、酸にさらされる時間が長いと、食道粘膜はただれ、ひどいと出血することもあります。長く炎症が続いた食道粘膜からは、がんが発生することも分かっています。
この逆流が、寝ている間など自分でも気づかないうちに、喉や気管、口の中まで到達してしまい、さまざまな症状に関連していることが、最近分かってきました。咽喉頭逆流症と呼ばれ、かすれ声やせき、喉の違和感を生じさせます。気管支ぜんそくにも関係していて、ぜんそくの症状や治療に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
胃食道逆流の原因としては加齢、肥満、食生活の欧米化のほかに、食道裂孔ヘルニアがあります。これは食道が通る横隔膜の穴(裂孔)が緩んで胃が胸の中に引き込まれ、逆流を起こしやすい状態を言います。
新たな手術法も
胃食道逆流の症状がある場合、生活習慣の改善と、原因に応じた治療が必要です。まずは胃酸の酸度を抑える薬を内服しますが、内服を止めると再度症状が出現しますので長期間、服用しなければいけません。
食道裂孔ヘルニアがあるときは、手術も選択肢になります。現在の主流は、負担の少ない腹腔鏡下の手術です。近年、裂孔ヘルニアの程度によっては、新しい手技「逆流防止粘膜切除術」が行われ始めました。口から入れた内視鏡で食道と胃の接合部の粘膜を処置して逆流防止を図ります。
いずれの手術も保険診療ですが、一部の手術は東北大学病院をはじめとする認定施設のみに許可されています。胸焼けで薬を内服している方も多いと思います。かかりつけの医師と相談の上、必要な場合は専門医の受診をお勧めします。
河北新報掲載:2025年7月11日

亀井 尚
(かめい たかし)
岩手県出身。東北大学大学院医学系研究科を修了。東北大学大学院医学系研究科消化器外科学分野を講師、准教授を経て、2016年教授に就任。