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〔いのち)の可能性をみつめる

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脱毛症

高橋岳浩(東北大学病院 皮膚科 講師)

早めの対策が改善の鍵

種類はいろいろ

 髪の毛が抜ける悩みは、多くの方にとって大きな不安の種です。脱毛にはいくつかの種類があり、原因や治療法が異なります。「円形脱毛症」「男性型脱毛」「女性型脱毛」などが代表的で、円形脱毛症は保険診療の対象となります。

 円形脱毛症で典型的なのは突然現れるコインのような丸い脱毛です。免疫の異常により自分の毛根が攻撃され、成長期の髪が抜けてしまうことで起こります。

 重症化すると頭部全体の毛が抜ける「全頭型」や、頭部も含め全身に脱毛が広がる「汎発(はんぱつ)型」と呼ばれる状態になります。ストレスがきっかけになることもありますが、主な原因は遺伝的な体質や免疫機能の異常です。

 軽症の場合、治療にはステロイド外用薬や局所注射、紫外線療法を用います。重症で急性期の進行例の場合は、ステロイドの点滴静脈注射療法が行われることもあります。慢性化した場合は、免疫異常を抑える新しい薬「JAK阻害薬」が治療の選択肢になります。

 JAK阻害薬は、3年前に円形脱毛症に対して保険適用となりました。治療が難しかった重症例でも発毛が期待できる新しい選択肢として注目されています。

 男性型脱毛は思春期以降の男性に多く見られます。額の生え際や頭頂部の髪が徐々に細く短くなり、最終的に薄毛が目立つようになります。これは男性ホルモンが変化して生じるジヒドロテストステロン(DHT)が毛根に作用し、髪の成長期を短くするためです。

 治療はDHTの生成を抑えるフィナステリドやデュタステリドの内服薬と、血流を改善し発毛を促すミノキシジル外用薬が中心です。これらを併用することで、進行を抑えながら発毛を促す効果が期待できます。治療を中断すると再び脱毛が進むことが多く、継続することが重要です。

 女性型脱毛は、頭頂部の髪が細くなり分け目が広がる「びまん性脱毛」が特徴です。生え際の後退はあまり見られません。加齢やホルモンバランスの変化、遺伝が原因とされ、特に閉経後の女性で目立ちやすくなります。治療にはミノキシジル外用薬が一般的です。

専門医の受診を

 脱毛症は適切な診断とそれに基づいた治療により改善が期待できます。気付いたときに早めに専門医を受診し、自分に合った対策を始めることが大切です。

河北新報掲載:2025年8月22日

髙橋 岳浩
(たかはし たけひろ)

長野県出身。2008年東京大学医学部医学科卒業。2010年東京大学医学部附属病院皮膚科入局、2015年東京大学大学院医学系研究科外科学専攻博士課程修了。2017年からYale University Department of Immunobiologyに留学。2023年に帰国し、現職の東北大学病院皮膚科講師に着任。

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