歯周病は全身の健康とつながるお口の病気
山田聡(東北大学病院 歯周病科 科長)
2025.11.12 Wed
歯周病は、歯を支える歯茎や骨に炎症が起こり、進行すると歯を失ってしまう病気です。初期は痛みが少なく、自覚症状に乏しいため「沈黙の炎症」とも呼ばれています。日本では、成人の多くが程度の差はあれかかっているとされる、とても身近な歯の疾患です。
最も一般的なのが慢性歯周炎です。歯茎からの出血、口臭、歯が長く見える、歯がぐらつくといったサインが現れます。進行すると硬いものが噛みにくくなり、食事や会話の楽しみにも影響します。治療の基本は、原因となるプラーク(細菌のかたまり)や歯石を取り除くことです。歯科医院での専門的な清掃と、毎日の歯磨きや歯間ブラシ・フロスを用いたセルフケアが欠かせません。さらに、禁煙や規則正しい生活も治療の効果を高めます。
近年の研究により、歯周病はお口の中だけの問題ではなく、全身の健康にも深く関わっていることが明らかになってきました。歯茎の炎症が続くと体全体の炎症反応を高め、糖尿病では血糖コントロールを悪化させます。また、心筋梗塞や脳梗塞の背景にある動脈硬化にも関与していると考えられています。実際に、歯周病を治療すると血糖値が改善するケースも報告されています。歯茎の健康を守ることは、全身の健康を守ることにつながっているのです。
従来は「一度失った骨や歯茎は元に戻らない」と考えられてきました。しかし現在は、条件が整えば再生を促す「歯周組織再生療法」が可能になっています。これは、歯茎や骨の細胞の成長を助け、回復を促す働きを持つ薬を応用し、歯を支える組織の再生を目指す治療です。日本では保険診療の対象となっており、経済的な負担を抑えて受けることができます。ただし、全ての方に同じように適応できるわけではなく、歯の周囲の状態や病気の進行度を詳しく調べた上での専門的な判断が欠かせません。これまでは病気の進行を食い止めることが中心だった治療が、組織を再生させることで、より歯を長く保てる可能性が広がってきています。まずはかかりつけの歯科医院で相談し、必要に応じて歯周病専門医や大学病院などを紹介してもらうことが大切です。
一方、若い年代でも発症する「侵襲性歯周炎」というタイプもあります。進行が速いのが特徴で、早期の受診と専門的な治療が大切です。
歯周病予防の第一歩は、毎日の歯磨きを丁寧に行うことです。歯ブラシだけでなく、歯と歯の間を清掃するフロスや歯間ブラシを組み合わせると効果的です。また、歯磨きの仕方は自己流になりがちなので、歯科医院で歯科衛生士に指導を受けると、ぐっと上達します。定期検診では磨き残しのチェックや歯石除去だけでなく、生活習慣に合わせたアドバイスを受けられるのも大きなメリットです。
歯周病は一度進行すると完全に元に戻すのが難しいため「予防」と「早期発見・早期治療」がとても大切です。歯茎の健康を守ることは、糖尿病や心臓病をはじめとする生活習慣病の予防にもつながります。毎日のセルフケアと歯科医院での専門的なケアを組み合わせ、二人三脚で歯周病に立ち向かいましょう。
歯周病は「歯を失う病気」であると同時に「全身の病気を悪化させる要因」にもなります。気になる症状があれば一人で悩まず、まずはかかりつけの歯科医院に相談してください。そして必要に応じて専門医にサポートしてもらうことで、より確かな治療を受けることができます。歯と体の健康を守ることは、笑顔と健やかな人生を守ることにつながります。
山田 聡
(やまだ さとる)
1991年大阪大学歯学部卒業、1995年大阪大学大学院修了、歯学博士。米国国立衛生研究所(NIH)特別研究員、大阪大学歯学部附属病院講師を経て、2017年より東北大学大学院歯学研究科教授、東北大学病院歯周病科科長。
※東北大学病院広報誌「hesso」52号(2025年10月31日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」