がん患者の口の健康
石河理紗(東北大学病院 口腔支持療法科 助教)
2025.12.12 Fri
医科治療の行方を左右
支持療法という言葉をご存じでしょうか。がんそのものに伴う症状や、治療による副作用・合併症・後遺症による症状を軽くするために行う予防、治療、ケアのことです。抗がん剤治療によって生じる吐き気・嘔吐(おうと)に対する制吐剤(吐き気止め)の使用などがあります。このような支持療法の発達で治療の負担は軽減しつつあります。「口腔(こうくう)支持療法」はその一つとして、主に歯科で実施されています。
化学療法が影響
東北大学病院では、がん治療で患者さんが医科から歯科へ紹介されることがあります。中には「がん治療をするのにどうして?」と疑問に思った方もいます。一見すると関係の薄そうな歯科とがん治療ですが、実際には多くで口腔管理の実施が非常に重要な意味を持ちます。
例えば、化学療法(抗がん剤治療)ではさまざまな有害事象(副作用)が全身に現れますが、口も例外ではありません。口内炎、歯や歯茎の痛み、口腔乾燥、味覚障害、口腔カンジダ症など、多くの問題が起こる可能性があります。特に口内炎は重症化すると広範囲に広がり、痛みなどのために食事や会話が難しくなる場合もあります。結果として、QOL(生活の質)の低下や全身状態の悪化を招き、最悪の場合には、がん治療の中止に至ります。
口内炎は化学療法の内容によってリスクの程度が異なります。薬剤との相性も個人差があるため、完全に予防することは困難です。しかし、事前の適切な歯科治療とブラッシングやうがいなどのセルフケア方法の習得により、重症化を防ぐことができます。
顎の骨 組織死滅
他にも、顎の骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になる「顎骨壊死(えし)」という病気も大きな問題です。これは、がんが骨に転移している場合などに使用する骨転移治療薬(ゾメタ、ランマークなど)の投与後や顎の骨を含む放射線治療の後に、抜歯や口腔内に持続的な炎症を生じた場合に起こります。現時点で根本的な治療がないことから、予防が大変重要です。具体的には、顎骨壊死のリスクのある医科治療を行う前に、歯科で口腔内を確認し、歯科治療を完了させる必要があります。
このように、口腔内環境を良好な状態に保つことは、がん治療を行う上でも大切です。歯科治療には時間や回数がかかるものも多いため、かかりつけ歯科医を持ち、日頃から口腔の健康に気を配ることをお勧めします。
河北新報掲載:2022年7月22日
石河 理紗
(いしこ りさ)
千葉県出身。2009年東北大学歯学部卒業。2014年東北大学大学院歯学研究科修了。東北大学病院顎口腔再建治療部を経て、2018年より現職。専門は口腔支持療法。