食道がん
亀井尚(東北大学病院 総合外科 上部消化管・血管グループ 科長)
2026.1.13 Tue
「食道がん」と聞くと、有名人も多く罹っていて、怖い病気というイメージを持たれるかもしれません。日本では年間に約2万6千人が食道がんに罹患します。男性に多く、60〜70歳台に多く発症します。食道は喉と胃をつなぐ約30㎝の管状の消化管で、内側は粘膜、外側は筋肉で構成されています。消化作用はありませんが、飲み込んだ食事をスムーズに胃まで運ぶという役割があります。
食道がんは粘膜から発生します。粘膜にとどまっていた初期のがんが進行してくると、粘膜を破って筋層に入り込み、さらに外側へと進展します。同時に食道の内腔にもがんが盛り上がることで嚥下時のつかえ感が生じます。最終的には隣接する臓器にがんが浸潤することになります。また、食道がんは早い段階からリンパ節へ転移するため、治療を難しくしています。食道がんには2種類のタイプがあり、日本では扁平上皮がんが約90%ですが、欧米では腺がんが多くを占めています。
早期がんはほとんど症状がありませんが、食べ物や飲み物を飲み込む時にしみる感じや違和感を訴える患者さんもいます。一方、進行すると嚥下時のつかえ感を生じ、最終的には固形物だけではなく水も落ちていかない状況になります。他のがんと同様、食道がんも早期発見が重要なことは言うまでもありません。症状のない早期がんの拾い上げは、バリウム検査を行う検診では難しく定期的な内視鏡検査が必要です。
食道がんの原因は明らかではありませんが、発症リスクの高い人が分かっています。扁平上皮がんでは喫煙、アルコールは大きなリスク因子です。特に日本人の約40%を占めるお酒を飲んで赤くなる体質の人(フラッシャー)は、アルコール代謝に関係する酵素の働きが弱く、発がん物質であるアセトアルデヒドが体内にとどまることでリスクが高くなります。現喫煙者で、多量の飲酒習慣のあるフラッシャーは100倍以上の食道がん発症リスクという報告もあります。
一方、胃食道逆流症が長期にわたると、胃酸による食道粘膜のただれと修復が繰り返され、バレット粘膜と呼ばれる胃に似た粘膜に置き換わります。このバレット粘膜から発生するバレット食道腺がんが知られています。最近、日本でも増加傾向にあり、この腺がんは食道と胃のつなぎ目付近に発生します。
食道がんの治療は、内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて行いますが、がんの進行度(ステージ)と患者さんの全身状態から方針が決まります。がんが粘膜表層に留まるステージ0では病変部だけを削り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で根治が可能です。ステージI、II、IIIの場合、治療の柱は手術になります。手術はがんを取り除くという確実性が高く、日本では術前の抗がん剤と食道切除術を組み合わせて良好な治療成績を収めています。手術は大がかりですが、負担の少ない胸腔鏡手術やロボット手術が行われるため、早期の社会復帰が可能になっています。手術は消化管構造の変化を伴いますので、食事の慣れが必要になります。また、治療成績は手術に及びませんが、患者さんの希望によっては放射線と抗がん剤の治療も選択されます。放射線治療が成功すれば元の食生活が維持されてメリットは大きい一方、放射線治療だけで根治できるかは不確実です。切除不能なステージIVでは、薬物療法や放射線を組み合わせて治療しますが、免疫チェックポイント阻害剤が導入されて成績が向上しています。
いずれのステージでも成績は大きく改善していますので、治療選択は担当医とよく相談されることをお勧めします。食道がんは早期発見が大事ですので、できれば年1回の定期的な内視鏡検査はぜひ受けましょう。
亀井 尚
(かめい たかし)
1966年生まれ、岩手県出身。1991年東北大学医学部卒業、1999年東北大学大学院医学系研究科修了。東北大学医学部第二外科、石巻赤十字病院などを経て2016年に東北大学大学院消化器外科学分野教授に就任。東北大学病院総合外科上部消化管・血管グループ科長。2019年より東北大学病院副病院長兼任。
※東北大学病院広報誌「hesso」53号(2025年12月24日発行)より転載
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- 東北大学病院広報誌「hesso(へっそ)」