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皮膚がんの一種・難治性悪性黒色腫(メラノーマ)治療における新規医薬品PAI-1阻害薬併用の有効性を確認

発表のポイント
  • PAI-1(注1)阻害薬TM5614(注2)は、探索から非臨床試験、臨床試験まで一貫して東北大学で開発した新規医薬品です。
  • 免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体(注3)が効かない難治性悪性黒色腫(メラノーマ)(注4)に対して、PAI-1阻害薬TM5614の安全性・有効性を検討する医師主導治験(第Ⅱ相治験)(注5)を行いました。
  • その結果、PAI-1阻害薬TM5614は、免疫チェックポイント分子発現を阻害して抗腫瘍免疫を増強することを確認しました。
  • 今後は、薬事承認と商業化を目指した治験が計画されており、日本における悪性黒色腫患者の生存期間の向上につながることが期待されます。
概要

免疫チェックポイント分子阻害薬である抗PD-1抗体が効かない難治性悪性黒色腫(メラノーマ)に対する治療は、これまでオプジーボ(抗PD-1抗体)+ヤーボイ(抗CTLA-4抗体)併用療法(注6)が選択されてきましたが、その安全性・有効性には多くの課題がありました。
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の藤村卓准教授らの研究グループは、東北大学で開発した新規医薬品PAI-1阻害薬TM5614がメラノーマにおいて、免疫チェックポイント分子発現を阻害して抗腫瘍免疫を増強することを発見しました。具体的には、2021年9月から2023年3月に、抗PD-1抗体が無効の進行期メラノーマ34例に対し、オプジーボとPAI-1阻害薬TM5614の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相医師主導治験を施行しました。その結果、最終解析では奏効率が25.9%(PPS)となり、主要評価項目を達成しました。また、未知の有害事象は認められず、重症の有害事象も7.7%と標準療法と比較して低い数値でした。本研究により、オプジーボとPAI-1阻害薬TM5614の併用療法が抗PD-1抗体無効例に対する新たな治療選択となりうる可能性が示唆されました。
本研究成果は、2024年6月4日British Journal of Dermatology誌に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
悪性黒色腫は臨床症状と病理所見より表在拡大型(注7)、末端黒子型(注8)、悪性黒子型(注9)、結節型(注10)の4病型に分類されています。欧米では比率が2%程度の末端黒子型が、日本では40%を占めています。
免疫チェックポイント阻害薬は、抗PD-1抗体のオプジーボとキイトルーダ、およびオプジーボ+ヤーボイ併用の3種類が一次治療で使用されています。しかしながら、日本に多い末端黒子型は表在拡大型に比べて体細胞変異数が少ないため抗PD-1抗体が奏効しづらいとされます。
実臨床においても、本邦悪性黒色腫一次治療としての抗PD-1抗体の奏効率は16~22%、オプジーボ+ヤーボイ併用は41%であり、欧米の38~44%、58%と比較すると極めて低く、抗PD-1抗体の無効例が日本では欧米より多いとされます。一方、オプジーボのgrade3以上の有害事象は12.5%、オプジーボ+ヤーボイ併用は59%です。日本人において抗PD-1抗体無効例ではオプジーボ+ヤーボイ併用療法の有効性は10〜20%であり、入院が必要な有害事象が60%以上の患者に発症しています。
抗PD-1抗体無効例に対する標準治療は、現在はオプジーボ+ヤーボイ併用もしくはヤーボイ単剤が使用されています。しかし、日本人での有効性はそれぞれ13.5%、3.6%と低く、それゆえ、抗PD-1抗体無効例に対する有効で安全な治療法が待ち望まれていました。

今回の取り組み
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の藤村卓(ふじむら たく)准教授らの研究グループは、全国7医療施設(東北大学、筑波大学、都立駒込病院、がん研有明病院、名古屋市立大学、近畿大学、熊本大学)による多施設共同研究として、2021年9月から2023年3月に、抗PD-1抗体無効の進行期メラノーマ34例に対し、オプジーボとPAI-1阻害薬TM5614の安全性・有効性を検討する医師主導治験(第Ⅱ相試験)を施行しました。その結果、治療期間終了時点で27人がprotocol per set(PPS)解析の対象となりました。オプジーボとTM5614の併用期間が8週間という短期間であるにも関わらず、主要評価項目である奏効率は25.9%であり、開始当初の設定期待奏効率の20.0%を大きく上回りました。また副次評価項目である安全性では薬剤と因果関係の否定できない重度有害事象の発症率は7.7%であり、標準治療であるオプジーボ+ヤーボイ併用(55-70%)もしくはヤーボイ単剤療法(55-70%)と比較して大幅に減少していました。併用期間が56日間のみであるにも関わらず、探索的項目である無増悪生存期間は174日 (95% CI: 114.4 – 232.9)と、癌の進行が併用療法終了後約4ヶ月間停止しており、メラノーマ治療の中心的薬剤である抗PD-1抗体が再び効果を持ち始めたことが示されました。併用期間の延長により、更なる無増悪生存期間の改善が期待されます。

今後の展開
薬事承認と商業化を目指し、2025年2月より、検証的第Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始する予定です。今後は日本における悪性黒色腫患者の生存期間の向上につながることが期待されます。

図1.抗PD-1抗体無効メラノーマに対するTM5614・ニボルマブ併用療法
Full analysis set(FAS)群における全生存期間は、273.3 日(95% CI: 209.7 – 337.0)、無増悪生存期間は174日(95% CI: 114.4 – 232.9)であった。
謝辞

本研究は日本医療研究開発機構(AMED): 橋渡し研究プログラム:進行性悪性黒色腫治療における抗PD-1抗体とのTM5614の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験:JP21ym0126041, JP22ym0126041, JP23ym0126041の支援により行われました。

用語説明

注1.PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1):古くは血管新生に、最近は免疫チェックポイントの発現に関与することが知られている。いずれも癌の進行に深く関わることから、癌の進行に直接関わる因子として30年前から研究されている。
注2.PAI-1阻害薬TM5614:東北大学で開発した新規薬剤。
注3.抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害薬):オプジーボ、キイトルーダとして進行期メラノーマ治療に幅広く使用されている。
注4.難治性悪性黒色腫(メラノーマ):本邦で最も多い皮膚がんであり10万人に1.12人発症している。進行するといまだ高い死亡率を示す。欧米では日本の30倍から50倍の発症率であり、海外では健康診断項目にも含まれる疾患である。
注5.医師主導治験(第Ⅱ相治験):大学医師が主体で行う、薬剤の効果・安全性を確認する試験。
注6.オプジーボ(抗PD-1抗体)+ヤーボイ(抗CTLA-4抗体)併用療法:現在、根治切除不能メラノーマに対して最も高い効果を示しているが、入院が必要な副作用が50〜60%の患者で発症することが問題となっている。
注7.表在拡大型:欧州など白人に多いタイプのメラノーマ。抗PD-1抗体が比較的効きやすい。
注8.末端黒子型:日本人の40%と、アジア人に多いことが特徴の手足に発症するメラノーマ。抗PD-1に治療が効きづらい。
注9.悪性黒子型:顔など露光部に出るメラノーマ。
注10.結節型:腫瘍が厚いため転移が多い。

論文情報

タイトル:Phase II, multicenter study of plasminogen activator inhibitor-1 inhibitor (TM5614) plus nivolumab for treating anti-PD-1 antibody-refractory malignant melanoma: TM5614-MM trial.
著者:Taku Fujimura*, Koji Yoshino, Hiroshi Kato, Satoshi Fukushima, Shoichiro Ishizuki, Atsushi Otsuka, Shigeto Matsushita, Ryo Amagai, Yusuke Muto, Emi Yamazaki, Yumi Kambayashi, Takashi Yahata, Toshio Miyata, Yasuhiro Fujisawa, Yoshihide Asano
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野 准教授 藤村 卓
掲載誌:British Journal of Dermatology
DOI:10.1093/bjd/ljae231
URL:https://doi.org/10.1093/bjd/ljae231

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野 
准教授 藤村 卓(ふじむら たく)
TEL:022-717-7271
Email:tfujimura1*mac.com(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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