眼の水晶体被ばく線量を正確に評価するための新知見:前面から入射する放射線だけでなく後方からの散乱線も被ばくに寄与する
2024.6.27 Thu
研究放射線従事者は、放射線白内障などの障害発生リスクがあり、そのリスクは従来考えられていたよりも高いことが分かってきました。そのため2011年に国際放射線防護委員会(ICRP)は、眼の水晶体線量限度を従来の150mSv/年から20mSv/年(100mSv/5年)へと大幅に引き下げる声明を発表し、日本では2021年に、ICRP勧告を採り入れた新法令(改正電離放射線障害防止規則)が施行されました。現在、放射線医療従事者の水晶体被ばく線量を正しく評価することは、とても重要となっています。
東北大学大学院医学系研究科放射線検査学分野の大学院生大野紗耶(おおのさや)、千田浩一(ちだこういち)教授らの研究グループは、眼の水晶体被ばくは前面から入射する放射線のみならず、水晶体の後方などの組織から散乱して水晶体に到達する放射線も寄与し、その影響は入射放射線エネルギーに依存して増加すること、そしてその割合は20%を超えることもあることを明らかにしました。
つまり水晶体線量計は皮膚に密着して装着しないと後方からの散乱線を検出できないため、水晶体被ばくを過小評価することになります。例えば、放射線防護鉛メガネに装着するタイプの水晶体線量計の場合は、散乱線を検出できないため、過小評価に対して注意する必要があります。
本研究成果は、Journal of Radiation Research (Oxford Academic)の7月号に掲載予定で、電子版は2024年5月31日に早期公開されました。
タイトル:Effect of backscatter radiation on the occupational eye-lens dose
著者:Saya Ohno, Satoe Konta, Ryota Shindo, Keisuke Yamamoto, Rio Isobe, Yohei Inaba, Masatoshi Suzuki, Masayuki Zuguchi, Koichi Chida*(*Corresponding author )
DOI:10.1093/jrr/rrae034
なお本研究は、厚生労働省労災疾病臨床研究事業費補助金「眼の水晶体の放射線防護に資する機材開発推進および被ばく低減のための多角的研究(千田班)」(200701-01)などの支援を受けて実施されました。
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